160話 指先一つで狂気の努力をやすやすと超えていく不条理。
160話 指先一つで狂気の努力をやすやすと超えていく不条理。
「ちなみに、これに関しては冗談じゃないってのがミソだね」
セミディアベルは笑みを浮かべながら、さらにスイスイと指を動かした。
画面には『PARAMETER: POWER_LIMIT = ∞』
『OVERRIDE: CLASS = FINAL』と表示され、
エルファの数値欄が一気に書き換えられていく。
「……で、エルファの存在値を限界まで底上げっと」
その瞬間、エルファの存在値は『9999兆』から『10京』へと跳ね上がる。
強化魔法でも訓練でもなく、
ただ数値フィールドを書き換えるだけで、
エルファは限界に辿り着いた。
「さらに、エルファの制限を解除して……『携帯ドラゴン化』っと」
コマンドラインが走り、エルファの身体が圧縮される。
幾何学的なエフェクトとともに、
その肉体は『二頭身のドラゴン』へと変形した。
リソース制約を外され、
最適化パッケージに再コンパイルされた姿。
センは、その光景を目にして唸る。
「……魔王を……携帯ドラゴンにしたのか……」
センの中には『携帯ドラゴン』に関する知識もある。
携帯ドラゴンは、一言で言えば、生きたオーパーツ。
限界まで進化した『生体OS搭載スマートデバイス』。
「さらに……『CLONE_PROCESS』……と」
セミディアベルの指先が踊った直後、
『携帯ドラゴン・エルファ』が『増殖』する。
2体になった携帯ドラゴンを見ながら、センはため息交じりに、ボソっと、
「……や、やりたい放題だな……」
心底呆れた声を漏らす。
そこで、セミディアベルは、隣のゼンドートへ視線を送った。
「……『エルファB』の方は君がオーナーになっているから、好きに使っていいよ」
「あれが携帯ドラゴンですか……話には聞いていましたが……」
などと言いながら、ゼンドートは無表情のまま手をかざし、
エルファBを自分の元に呼び寄せた。
「トランスフォーム」
その声を合図に、携帯ドラゴンがゼンドートを包み込むように変形する。
コードの断片が宙を走り、
『MERGE_COMPLETE』『ACCESS_GRANTED』と表示されて消えた。
光が落ち着くと、
そこには龍の鎧を纏ったゼンドートが立っていた。
その様子を尻目に、セミディアベルは、
「……これで、存在値30京ぐらいかな。やっぱり、プランAだけじゃ足りないね」
とつぶやいている。
センは、泣きそうな顔で、
「あのー、今の、あの、スイスイっと指を動かしただけで……ゼンドートさんの存在値は30京になったんでしょうか?」
「そうだね。まあ、でも、数字なんて、そんなもんだよ。世界視点の俯瞰でみれば、『言ったもんがち』みたいなところがあるからね」