159話 クリエイション。
159話 クリエイション。
次の瞬間、空気が爆ぜる。
床がビリビリと軋み、キテレツな奔流が虚空に突き抜ける。
その圧は、世界そのものを揺らすかのようだった。
一気に膨れ上がる存在値。
その数値を確認したセミディアベルが、
にんまりと微笑んで、
「さすがだね、センエース。存在値52京。すばらしいよ。……私たちを大幅に超えている」
呑気にそんなことをつぶやくセミディアベル。
その横で、ゼンドートが眉間にグっとシワを寄せていた。
そんな二人に対して、センは、
「……俺のこの数字を見て、まだ笑えるのか。なかなかの胆力をしているじゃねぇか。褒めてつかわす」
そんなことを言うセンに、
セミディアベルは、アゴに手をあてて、
「その数字と戦闘力が相手だと……Aプランだけだと届かないかなぁ」
「いいハッタリじゃないか。まあ、9兆年を積んで無敵になった俺に対してできる事と言えば、ハッタリぐらいしかないから、クオリティも命がけになるか。わかる、わかる」
などと余裕をこいているセンの目の前で、
セミディアベルは、『世界観にそぐわぬ異物』を懐から取り出した。
見た目は、まんまスマホ。
黒い板状の機械。
見覚えのない材質は冷たく滑らかで、
この世界の物質法則に、まったく属していない。
指先で表面をなぞるたび、
空間の端にエラーログのようなヒビが走り、
天井のない虚空に、
『#VAR_OVERFLOW』
『INSTANCE_DUPLICATE』
『NULL_POINTER_EXCEPTION』
『ACCESS_VIOLATION』
といった赤文字がノイズのように浮かんでは消えた。
「……これは『G‐クリエイション・蝉』。一言で言えば、この世界のバックドア・エクスプロイトを実行できるアイテムだね。ちなみに、世の中には、こういうデバイスなしで、バックドアを解放できる鬼畜天才も存在したりするんだよ。ウンザリするよね、ふふ」
セミディアベルの声は軽やかだが、
その実、平然と『世界の根幹コード』をリコンパイルしていた。
「……バックドア……っすか……えっと、具体的に、何ができる感じで?」
「こういうことが出来る」
指が滑る。
次の瞬間――
ブブブッ、と異様なノイズが空間に走り、
目の前に『エルファ・オルゴレアム』が出現した。
「エルファを……召喚したのか……」
「召喚じゃないよ。変数を直接いじって、プロセスをフォークしただけ。……まあ、傍目には召喚と変わらないけどね。召喚の場合は虚理やマナを使うけれど、これは、そういう手続きを全部スキップしている。ちなみに、その代償を払うのは君だよ」
「なんでやねん」
「そう言いたくなる気持ちはわかるよ」