157話 灰になるほどヒマじゃねぇんだよ。
157話 灰になるほどヒマじゃねぇんだよ。
幼子の囁きにも、神の宣告にも、悪魔の嘲笑にも聞こえる多重音声が脳内に響く。
『0秒で、好きなだけ修行できる空間に連れていってあげる。その空間では、どれだけの時間を使っても、外の経過時間は0。さあ、何年修行したい? 好きな時間を言って。上限は9兆年。ただし、精神が崩壊したら灰になるから、選ぶ時間は慎重にね。一度決めて中に入ったら変更はできないよ』
センは、眉ひとつ動かさずに即答する。
迷う素振りすらない。
むしろ食い気味に、叫ぶように。
「9兆年だ」
その宣言に対し、センの中にいる17番が、
(……っ!? え、マジで?! え、本当に?! これ、シャレじゃないって! 本当に9兆年やらされるんだよ?! 9兆とか、灰になるだけだって!)
脳内で悲鳴を上げる。
だが、その声に対し、
センエースの瞳には、ただ燃え上がる執念だけが宿っていた。
「心配するな、17番。説明書に書いてあったが、副人格はソウルゲートを体験できないらしい。だから、お前は9兆年も頑張る必要はない。やるのは俺だけだ」
(君が灰になったらボクも死ぬ!)
「たかが9兆年で灰になるほどヒマじゃねぇよ」
(ヒマかどうかは誰も聞いてないね!)
――その瞬間、ゲートが開く。
空間が裏返り、景色が万華鏡のように砕け散る。
センの足元が崩落し、意識は光と闇の奔流に呑み込まれていった。
――そして、始まった。
誰も覗き見ることのできない、センエースの長い長い時間の旅。
★
一瞬だけ意識を失っていたセンだが、
「……っ」
意識を取り戻すと同時、センは、
「……おお、びっくりした」
目の前にいる人物の姿を視認して、つい、反射的に一歩後退りをする。
目の前にいたのは『エルファ・オルゴレアム』だった。
何もない、だだっ広い空間。
上下の境界も地平線もなく、ただ白と灰がにじみ合う無限の舞台。
足元には確かに『床』があるが、その材質も色も曖昧で、踏むたびに波紋のような揺らぎを返す。
音も風もなく、ただ『戦うための場所』だけが設えられている。
その中心に、ポツンと立っているエルファ。
生前と変わらぬ姿のはずなのに、そこに生気はまるでない。
眼光は虚ろに濁り、呼吸のリズムすらなく、ただ敵意だけが残像のように漂っている。
センは鼻を鳴らし、
「……説明書に書いてあったが、お前を殺すことで経験値を稼いで存在値を上げることができるらしいな」
と声をかける。
だが、エルファはうんともすんとも言わない。
ここから、えげつないほどの怒涛!!
センエースの本当の闘いはここからだ!!
予告!
最終的に、センエース死す!!