151話 勝つ。
151話 勝つ。
エグゾギアのチャージに体力をごっそりと持っていかれてしまった。
ただでさえ疲れ果てているのに、その上で、暴力的なエネルギーのカツアゲをくらって『グロッキーの果て』と向き合うセンエース。
(動こうとしていることがおかしい。流石に、休んだら?)
「寝ぼけたことぬかすな……リミットまで、もうほとんど時間がない……」
(十分、強くなったと思うよ。流石に、もう勝てるんじゃないかな)
「勝てるんじゃないかな、じゃねぇんだよ。……勝つんだ。勝たなきゃゴミだ。勝ちもせずに生きようとすることが、そもそも論外なのだ。絶対に勝つ。確実にゼンドートを殺す。……そのためにできることを全部やる」
そう言いながら、センは立ち上がった。
疲労に押し潰されてもおかしくないはずの体を、意志の力だけで無理やり起こす。
普通に考えれば絶対に、到底、動けるはずがない。だが、センエースに常識は通じない。
のそのそと足を引きずり、エルファの残した宝箱の前にたどり着く。
それは黒曜石を削り出したような箱で、角には血管のような赤い光が脈動していた。
触れた瞬間、箱の拍動が自分の心臓と同調し、逆にこちらが支配されている錯覚を覚える。
センは歯を食いしばり、両手に力を込めて蓋を押し上げた。
軋む音はなく、空気そのものが裂けるような静かな衝撃だけが走る。
――中に収められていたのは。
「……チケット?」
それは、まるでこの世の瘴気をすべて集めて煮詰めたような、黒紫と墨緑が渦を巻く禍々しい紙片だった。
形状は、まるっきり、映画の前売り券。
紙のはずなのに液体のように揺らぎ、角度によっては血管の走る臓器の断面にすら見える。
さらに一枚の説明書が添えられている。
真新しいはずなのに今にも灰へと崩れそうなほど脆く、その表面には人の手跡ではない黒い筆致が走っていた。
センはチケットと説明書をつかみ取ると、その場に力尽きて倒れこみ、
「……サタンソウルゲートチケット……」
説明書に書かれていた『チケットの名称』を、かすれ声で口にした。
「任意のタイミングでサタンソウルゲートが使えるようになるチケット……サタンソウルゲートってのは、普通のソウルゲートとは違うのか?」
ソウルゲートとは、生涯で一度だけ使える神の裏技。
唐突に現れる扉をくぐると、外の時間を止めたまま、設定した任意の期間だけ修行できる。
一秒でも無限でも、時間を自由に指定できるが、精神が崩壊すれば即座に灰となり命の権利を失う。




