150話 永遠よりわずかに長い12時間。
150話 永遠よりわずかに長い12時間。
道は細い。
だが細いほど、刃はよく通る。
エルファの置き札はなお尽きない。
けれど、置かれる前に『置かれた跡』だけが先に現れる。
未来の影法師を踏み、現在をずらせ。
仮面の内側でわずかに光が揺れ、すぐに消える。
脈は変わらない。
変わらないこと自体が、変化の兆しに見えるほど、こちらの世界は歪む。
ぶっ壊れて歪んで腐って……
それでようやく見えてくるものも……
あっていいような気がするんだ。
★
――11時間55分。
〈PSYCHO JOKER: SUSTAIN—臨界接続〉。
痛覚は海鳴り、恐怖は蒸発。
拳と床だけが輪廻。
白い炎が無音のまま伸び、城全体が低く共鳴して拍を支える。
当て勘を半拍遅らせ、相手の『先置き』の外で刃を立て続ける。
エルファは応じ、なお最短の最善を押し付け続ける。
しかし、その最善の輪郭が、にじむ。
センの世界は二色。
血濡れた黒と、空より淡い金。
その間を泳ぐ白い無音。
肘が舞い、膝が囁き、肩が笑い、拳が歌う。
歌は踊り、踊りは斬首、斬首は祈り。
祈りは誰に。
知らない。
だが、この拳は届く。
届くために、すべてが壊れていく。
――永遠に永遠を積み重ねた果て。
12時間を経たセンは、最後に、
「……閃……拳……」
命の限りを尽くした拳を放つ。
限界を遥かに超越した悠久の残影。
だからこそ届く。
センの拳で、エルファのコアが砕け散る。
キラキラと光の粒になって弾け飛ぶ己の欠片を見つめながら、
エルファは、ただの声を漏らす。
「……異常……者……」
罵声でも侮蔑でもない。
直球の本音を漏らしたエルファの破片は、
最後に、グっと結集し、宝箱に変化した。
――残されたセンは、ヒザから崩れ落ちて、
「はぁ、はぁ、はぁ……」
どうにか、取り出したアスクレピオスを地面に突き刺して、蛇の慈悲を唱える。
足元から蛇のような光の曲線が広がり、螺旋を描いてセンの全身を包み込む。
死んだように、ただじっと、肉体の再生を待つセンエース。
命に対する冒涜のような12時間を見届けた17番は、
センに、
(君ほど『人間じゃない人間』は、他にいない……と断言できるよ。君は本当に異常だ。気持ち悪い)
エルファと同じかそれ以上に素直な本音を口にした。
そんな17番にセンは、ピクリとも動かないまま、
「探せばいるさ……俺を置き去りにする変態の一人や二人……世界は広いからな……俺は詳しいんだ……」
言葉に力がない。
疲れ果て、ズタズタになった肉体が小刻みに震える。
★
9分が経過。
身体の損傷はどうにか回復したのだが、
「……やべぇな……動けねぇ……」




