148話 アンコール沸かす。頂上不滅破滅。
148話 アンコール沸かす。頂上不滅破滅。
〈PSYCHO JOKER: SUSTAIN/点火0.3s—保炎連鎖〉。
〈PAIN-MAP: 拡張〉〈AUTONOMIC: SYMPATHETIC+++〉。
床は踏み込みで細片を吐き、反射のノイズが拍を刻む。
まだ行ける。
もっと行ける。
もっと、もっと、舞える。
――白い炎は熱を持たないまま背丈を伸ばし、城壁は低く鳴って鼓のように脈打つ。
呼気は鉄を含み、舌は痺れ、掌は微細振戦で震える。
肋の内側で擦れ合う音が、金属の鈴のようにカランと鳴って、すぐに海の底へ沈む。
拳は骨で、骨は鐘で、鐘は血で満たされる。
打つたび、世界が一枚、薄紙のように剥がれていく。
叫ぶ。
猛る。
心躍る。
アンコール沸かす。
もちろんジョーク。
★
――1時間経過。
〈ARRHYTHMIA WATCH: 小〉〈COGNITIVE DRIFT: 小〉。
視界の縁が狭まり、音は高域だけが残る。
鼻腔の奥で乾いた血がほどけ、舌に鉄が濃く乗る。
エルファの仮面が針の幅だけ傾き、肩口の外套に裂け目がひとつ増える。
最短の最善は変わらないが、呼気が半拍だけ高くなる。
センは足裏で床を撫で、砂利の歌に合わせて間をきざむ。
一歩、半歩、四分の一拍。
空気の弦がピンと張り、そこに肘を弾ませる。
とけた黒の粉塵が光の鱗になり、呼吸の度に喉を擦る。
喉は歌い、歌は咳になり、咳はまた歌へ戻る。
意味なんて考えなくていい。
どうせないから。
きっとないから。
★
――3時間経過。
〈NEURAL LATENCY: 微増〉〈PAIN-MAP: 領域拡張〉。
掌の皮膚感覚が鈍り、指先の震えが拍に同期する。
センは肘裏の腱、肩甲帯の『遊び』、足裏の力点――点で穿つ。
エルファは三角の足運びで正面を拒み続けるが、目孔が短く細まる瞬間が増える。
砂時計の砂が飴になり、伸びて、千切れて、また落ちる。
拳は円を描き、円は渦を産み、渦は仮面の縁を舐める。
歯の根がカチカチと合い、顎の関節が乾いた拍を打つ。
〈THERMAL: 上昇〉の灯が微かに瞬くたび、皮膚の下で螺子が緩む気配。
センはあえて空振りを混ぜ、空振りの風圧で外套の裾をすくい上げる。
風そのものに刃を仕込むように。
空振りが当たり、当たりが空を掴む。
意味は置いていく。
勝ちだけ連れていく。
そして、もっと先にいく。
一人で。
孤独。
実家のような安心感。
★
――6時間経過。
〈ARRHYTHMIA WATCH: 中〉〈COGNITIVE DRIFT: 中〉。
期外収縮が群れ、心拍が一拍泳ぐたび、視界に雪が降る。
内言が砂になり、言葉は一語だけ残る。
『殺す』。
それが杭。
殺意だけが輪郭になるフロウ。
エルファの肋間に薄い痣が増え、外套の裾が重みを失って揺れる。
置き札はなお尽きないが、枚数が一枚ずつ減っていくウェビーなシグナル。




