147話 飛ぶしかない若手。
自作コミカライズ版35話配信中!
下のリンクから、直接35話をダウンロードできるページに飛べるようにしてあります。
それを記念しての一日10話投稿!!
本日の10話目!!!!!
今回もえぐかったですが、どうにかやりとげた……っ
コミカライズ版2週年まであと3か月……
うぉ……
147話 飛ぶしかない若手。
自問自答に意味はない。
だって、悩んでいるのではなく、躊躇しているだけだから。
売れかけている芸人のバンジージャンプみたいなもの。
届きたい未来を見据えれば、どんなに怖くとも、飛ぶしかないのだ。
つまりは、しかして、センエースの中で、『やる』のは確定している。
「……ふぅうううう」
エルファから距離を取り、深く、深く、息を吐くセン。
命の裏で心拍が一拍だけ沈む。
鉄の味にもいい加減飽きた。
耳の膜がパチンと開く。
「…………サイコジョーカー……12時間モード……」
ごくりと、反射的にツバをのむ。
己の心の弱さと対峙しながら、センは、
「――起動」
宣言をする。
その瞬間、センエースの全身を包み込む極度の精神的負荷。
〈PSYCHO JOKER: SUSTAIN/点火0.3s—保炎連鎖〉
〈PAIN-MAP: 拡張〉〈AUTONOMIC: SYMPATHETIC+++〉 〈ARRHYTHMIA WATCH: 注意〉
「うぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぃいいいいっ!!」
視界が微細なフリッカーで粒立ち、輪郭が白く焼ける。
鼻腔の奧で血の殻がはじけ、金属の味が舌を痺れさせる。
骨伝導で鳴る自分の声が、半拍遅れて頭の内側に返ってくる。
麻酔なしで親知らずを抜くような痛み。
あるいは、
酸をジョッキでガブ飲みするような痛み。
どれを当てはめようとしても届かない。
――とっておきの比喩が全て安い言葉になって砕ける。
「死ね、ごらぁああああ!!」
純度の高い殺意をエルファに向ける。
豪速の特攻。
ブラックな理念に滅入る残像。
ゆらゆらと踊るグルービーなカゲロウ。
反射のノイズで刻む曇天のメロウ。
リリカルなテンポで舞う閃光。
センエースは、暴走する拳を、エルファの腹部にぶちこんでいく。
「ぐっ……」
くの字になって血を吐くエルファ。
仮面が針の幅だけ傾き、足裏が一度だけ重心を探る。
〈NEURAL LATENCY: 微増〉のランプが視界の片隅に瞬く。
「おらおらおらぁああああ!!」
『鬼神が裸足で逃げ出す威圧感』で、極限の暴力を連打するセンエース。
狂騒的非連続性のサステイン。
だが、切れ目のないチェーン。
ゆえに、ほぼ無限のドメイン。
〈COGNITIVE DRIFT: 微〉。
「――愚かな命。……そんな無茶が長時間続くとでも?」
極めて冷静なエルファの言葉を、センは鼻で笑う。
「――あまり弱い言葉を使うなよ。モブに見えるぞ」
激痛と苦悶の嵐のただ中で、軽口を返す異常。
センは踏み込む。
もっと深く。
もっと遠く。
★
そこから12時間の地獄が始まった。
12時間。
720分。
43200秒。
1秒すら耐えがたいサイコジョーカーを、これから積み上げる。
――永遠より長い1秒を、4万回以上、積み重ねていく。




