146話 イカれた戦闘力。
146話 イカれた戦闘力。
(99本目の魔王までは、いわば、ザコCPUみたいなもんだった。……数値だけ立派な雑魚。その気になればいくらでもハメ殺せるカス。……だが、こいつ……エルファは違う。おそろしくやりこんでいるプレイヤー。俺とほぼ同等の戦闘思考力を持つ生きた化け物……)
エルファの足運びは三角。
正面に立たず、常に斜線の終点にいる。
こちらの『次』が先に地図へ描かれ、見えない導線でそこへ連れていかれる。
置きの札が、戦場の床一面に伏せられている感覚だ。
「ちょっと、強すぎんぞ、お前、ごらぁああ!」
センは『怒声を飛ばす』……というダーティなリズムで、呼吸の拍をずらし、当て勘を半拍遅らせて逆取りを狙う。
が……読まれていた。
エルファの拳が、その遅延の空白にぴたりと到達する。
「ぶへぁ!」
血をはくセンに、冷めた視線を送るエルファ。
さらに追撃。
エルファは、肩で打たず、背で打つ。
拳で殴らず、間で切る。
ちなみに、現時点におけるセンエースのMAX存在値は2300兆。
互いに四捨五入したら5倍の差があるという、地獄みたいな状況。
〈AEG-CORE ONLINE/RUNTIME MAX: 12:11:59/REMAIN: 12:02:51〉
(ぐっ……こ、ここまでの手ごたえで分かった。エルファは、強いだけじゃなく、他の魔王よりも硬いし、体力が豊富で、スタミナも抜群。魔王の中の魔王。……む、無理だ。普通にやっていたら、12時間ちょっとで、エルファを殺すのは絶対にムリ。今の俺の火力で、こいつのHPを削り切ろうと思えば、たぶん、9年ぐらいかかる……)
冷静に計算した上ではじき出した数字。
今のセンにとっては、宇宙の寿命よりも長く感じる。
(エルファに勝てる可能性がある方法……それは、今のところ、たった一つだけ……)
センはギリっと奥歯をかみしめて、
(――時間一杯、サイコジョーカーを使うこと――)
ここまで、センは、サイコジョーカーを『トドメの一撃』の時だけ使ってきた。
つまりは、『ほんの一瞬』だけ。
……長くとも数秒しか使ったことがない。
言うまでもないが、『あえて使わなかった』のではない。
そもそも、そんなに長時間使えるようなシステムではない。
長時間の使用はおろか……本来であれば、
『一生に一度一瞬だけ使うのも危うい』という代物。
それを、12時間ぶっ通しで使い続けるしか、エルファ・オルゴレアムに勝つ方法はない。
(いけるか? いやぁ、流石に、それは無理じゃねぇか?)
深部にダイブする自問自答。
けど、そんなもの意味ない。




