145話 神闘。
145話 神闘。
「……行くぞ、エルファ・オルゴレアム。殺してやる」
そして始まった、
地獄のような死闘。
――100本目の塔魔王『エルファ・オルゴレアム』の強さは、
センエースの想像をはるかに超えていた。
存在値ほぼ1京という数字もそうだが、
とにかく、戦闘力がハンパじゃなく高かった。
(速ぇ……! 挙動のぜんぶが、キチ○イじみた鋭さ……。天賦の戦闘センスに、上等なフェイントを絡めてくる高度な流。――余裕で俺より天才)
間合いが溶けた。
エルファはカカトではなく『足刀の外縁』で床を撫で、摩擦を殺した半歩を無音で差し込む。
肘の内旋だけでこちらの前腕を外へ弾き、
同時に膝の返しで脛を刈る『角度』を提示。
――だが、当てない。
丁寧に置く。
こちらが次に踏むべき地点へ、先に自分の重心の影を置いて、地面の権利を奪ってくる。
(神闘の型をすべて理解した上での動き……こいつ……マジか……っ)
センは即応で『逆気閃拳』を胴へ通す。
だが、エルファの肩甲骨がひと拍先に滑り、肘の刃で拳を半身だけ逸らす。
逸らし終えるより早く、腰の切り返しから短い膝が腹の浅層を叩く――追撃は来ない。
来ないこと自体が、次の択になる。
受けてから読む時間が、ない。
(強制の視線誘導……ガチか、おい……)
視線は胸を刺すのに、打点は腰で動く。
上段の影を見せ、実体は下へ。
フェイトの糸が三手先まで張られている。
こちらが上を切れば下が刺さり、下を守れば背が空く――二択ではない。
二択を重ねた四択が、最短フレームで同時に迫る。
「くそが! 深淵閃風!!」
センは、どうにかエルファの足を払いつつ、肘で内線を塞ぎ、肩当てで胸を潰す三点の圧を束ねる。
だが、エルファの基底軸は微動だにしない。
足裏の力点は内側へ絞られ、踏み替えの気配を消したまま重心が背後へ回る。
気配が背面化する。
気付けば、肘裏が頸動脈のラインに触れている――わずかに触れるだけで、命が傾く配置。
(読み、置き、二択……全部で最短フレームの『最善』を押し付けてくる。存在値でだいぶ負けてんのに、戦闘力でトントン。……え、えぐい状況だ。マジかよ。……俺、夢見てんのか?)
肘を切り上げてラインを外し、掌底で胸骨を撃つ。
当たる――はずが、通らない。
受けた瞬間に肩甲帯の『遊び』をゼロにされ、力の抜け道だけが用意されている。
打撃の芯が空洞へ落ちる感触。
反射で追い突きを重ねると、その反応を待っていたかのように、肋間へ短剣のような拳が滑り込み、呼気が半拍ずらされた。




