142話 本当の闘い……
142話 本当の闘い……
いま戦っている『99本目の超塔魔王』に至っては、
もうすでに半日以上戦っているが、まだ殺せていない。
〈AEG-CORE ONLINE/RUNTIME MAX: 12:08:21/REMAIN: 00:17:09〉
「ちょ、もう……マジで……いい加減……死ねよ……もう……お前との闘いだけで、すでに、サイコジョーカーを8回ぐらい使ってんだぞ……何回も、何回も変身しやがって……」
センの顔は血のマスクで覆われ、鼻血は頬に固まって皮膚と一体化している。
呼吸のたびに肺がキシキシと軋み、肋骨の内側で熱がこもる。
視界の端は常に黒く、耳鳴りは高周波で張り付いて離れない。
握った拳からは骨の軋みが伝わり、瞬発力を出すたびに筋繊維が千切れる感覚がある。
それでも前に出ざるを得ない理由――それは、塔魔王の復活。
『これでトドメだ!』とばかりにサイコジョーカーを使って必殺の一撃を叩き込み、
『やった、殺せた!』と思った瞬間、
塔魔王は、まるで演劇のカーテンコールのように、
爆音とともに立ち上がり、
無駄に派手なエフェクトで強化変身を果たす。
ツノが増えて、体が若干大きくなり、装甲が追加される。
そして、毎回、決まって、
「私たちの本当の闘いはこれからだ」
などとほざき散らかす。
……という流れを、ここまでに8回繰り返している。
センは、フラつきながら、
「ちょ、待って……これ、もしかして、バグ? スーファミの時は、よくあったよな、こんな感じの、敵が死ななくなるバグ。……今、それ? それに陥っている感じ?」
などと文句を叫びつつも、
折れることなく、
必死に戦い続けた結果、
ようやく、
「ぐがぁあああああああ!!」
耳をつんざく断末魔を上げて、
99本目の超魔王は、やっと死んでくれた。
「復活しないな? ……しないよね。……や、やっと終わった。……長ぇって……」
心底しんどそうに溜息をついた瞬間、
全身の筋肉が糸を切られたように弛緩し、
膝が笑って踏ん張りが利かなくなる。
視界の端はノイズだらけになり、耳鳴りがさらに高音域へ跳ね上がった。
指先に血の気が戻らず、握った拳は震えっぱなし。
それでもセンは、宝箱を開ける。
「カギ……100本目……ギリギリ、間に合った」
指先に残る金属の冷たさが、現実感をかろうじてつなぎ止める。
コンプリートの達成感に、意識が一瞬、遠のきそうになる。
だが、まぶたの裏の闇へ落ちるわけにはいかない。
センは顔を左右に振り、奥歯を噛みしめて呼吸を整えると、
鉛を詰めたような脚を無理やり前へ押し出し、扉の元へ向かった。




