136話 合理性のある不安なんて存在しないんだよ。
明日、自作コミカライズ版35話を配信します!
それを記念して、明日は一日10話投稿!
136話 合理性のある不安なんて存在しないんだよ。
(頑張って、頑張って……それでも届かなかったら? 頑張ったことが全部無駄になったら?)
「そんなものは、全部が無駄になってから考えればいい。いま、それを考えることに、なにか『合理的な理由』が一つでもあるか?」
(……『人の不安』に、合理性なんて、あってたまるか……っ)
17番の本音の吐露を前に、
センは、冷めた顔で、
「感情を処理できん人類はゴミだと教えたはずだがな」
(今は、ガン〇ムネタが聞きたいんじゃない!)
「じゃあ、何が聞きてぇんだよ。俺は、見ての通り、忙しいんだ。禅問答に付き合っているヒマはない」
(君は! ゼンドートに勝てるか?!!)
「人様の『中』で、わめくんじゃねぇよ。響くだろうが」
ため息交じりにそう言ってから、
センは、
「勝てるかどうかは『結果』だから、今、それを口にしてもマジで意味ねぇ。『絶対に勝ちます』とか『確実に勝てます』とか言ったところで何になる? そうやって断言して負けるやつは山ほどいるぜ」
(……)
「今、俺が重視しているのは、やるかやらないかの『選択』だ。『結果の予測』に価値は見出せねぇ。……『勝つかどうかはどうでもいい。やるんだ』ってのは、ありふれた根性論だが、実際、どこまでいっても、いつだって、目の前にあるのはそれだけなんだ」
(……)
「お前に言いたいことは一つ。……無意味なおしゃべりで俺の体力を奪うな。俺のスタミナだって無限じゃねぇんだ。……たぶんな」
★
狂気的な光景だった。
17番は、吐きそうになる。
自分は一切疲労していないのだが、
あまりに痛々しすぎて、心が摩耗しているみたい。
見ているだけのはずなのに、胃の底がひっくり返る。
共感性ストレスが過剰に立ち上がり、ミラーニューロンが他人の痛覚を模倣する。
胸の内側で交感神経が空焚きされ、
ノドに金属の影がせり上がってくる。
――センエースは、闘い続けていた。
『休憩』は、アスクレピオスを使う時の『9分間の座禅』だけ。
それ以外の時間は、全部、魔王との闘いにあてているセンエース。
回復するのは傷と稼働時間だけで、
体力に関しては、アスクレピオスを使うたびに、
毎回、ごっそりと削られている。
蛇の慈悲は、傷と稼働時間を戻す代わりに、体力を前借りする魔法。
――寝不足をイメージすると分かりやすいかもしれない。
睡眠時間というリソースを削って、活動時間を伸ばす。
その代わり、睡魔と倦怠感という利息を払う羽目になる。




