134話 エグゾギアという、とんでもない人食い虫。
134話 エグゾギアという、とんでもない人食い虫。
本来ならば、この循環だけで人は疲労を消し去れる。
筋肉は裂けても、瞬きの間に再構築され、神経は焼けてもたちまち火花のように接続される。
『疲労』という概念そのものを、焚き火の灰のように吹き飛ばせる。
だが――その余裕はない。
エグゾギアは人ひとりの限界を嘲笑うように、途方もない燃費を要求する。
燃えさかる炎の大半は、外骨格の受電層に吸い取られ、兵装の咆哮を維持するために費やされる。
だから、己を癒す余白など残されてはいない。
体力は発電所。
しかし、その電力はすべて軍需工場に横流しされ、家屋の灯火は常に停電寸前。
回復を許されたはずの肉体は、逆に焦げつき、砕け、なお戦い続ける。
――蛇の慈悲とは、慈悲ではない。
むしろ、慈悲を偽装した酷薄な契約。
生命を焚き捨ててなお立ち続けるための、恐るべき擬装奇跡。
……現状、センが感じている疲労感は、『フルマラソン100セット以上』と言って、まったく過言じゃないレベル。
「……なるほど……なるほどぉ……」
センは、自分の体をじっくりと確かめる。
どこがどれだけ重たいのかを鮮明にしていく。
可動域を入念に確かめ、丁寧に気血の流れと向き合っていく。
その結果、
「ふんぬ……」
センは、『今の段階で使える筋肉』をフル稼働させて、
どうにか立ち上がろうとする。
産まれたての小鹿のようにプルプルと震えながら、
しかし、二本の足で立ったセンは、
「こうなると……いよいよ、扉と塔の往復マラソンがダルいな……」
ため息交じりにそうつぶやいてから、
「まあ、でも、いいさ。……エグゾギアのチャージ手段がなくて立往生するより……全然いい」
そう言って、
センはフラつきながらも、
しっかり前を向いて歩く。
前だけを向いて、ひたすらに、ひたむきに、
――その様を内側から見ていた17番が、ボソっと、
(よくそれだけ頑張れるね)
「そりゃ、死にたくないからな。あと、俺には記憶を取り戻してやらなければいけないことがある。何をしなければいけないか覚えていないが……『しなければいけないことが確実にあること』だけは、魂が喚いているから確かだろう。……それと……」
(それと?)
「……ゼンドートに殺されて死ぬのだけは、なんか、マジでイヤだ」
(…………そうか)
そうつぶやいてから、17番は、
(ボクも、蛇の慈悲で、エグゾギアをチャージしたことがある。2分分を回復させただけで、三日は動けなかったよ)




