133話 治癒。
133話 治癒。
センは思考の海に沈んでいく。
その結果、いくつか、『可能性』は思い浮かんだ。
(たとえば、『言えば死ぬ系の誓約』。17番は過去に記憶を飛ばしている。タイムリープのルールで、『禁則事項は口にできない』……という可能性はゼロじゃない。……あとは……たとえば、裏切り。……17番は、ゼンドートに寝返っていて、俺を殺すことを目的にしているから秘密にしているとか? ……いや、ないな。もし、そうだったら、魂魄交換なんかするわけがない。もともと、17番が何もしなければ、俺は手も足も出ないんだ……)
ほかにもいくつか、『17番が嘘をついている理由候補』が頭に浮かんだ。
しかし、
(なんのヒントもないから、どれも、ただの憶測にすぎない。なんだったら、根本の話、『俺が無駄に穿った目で見ているだけ』で、本当は、『17番は何も隠してなんかいない』って可能性も普通にありえる……)
うーん、うーん、と、悩んではみたものの、
しかし、センの推理力は、
『探偵モノに出てくるオトボケ警部』以下なので、
たった一つの真実を見抜くことはできない。
結局、なんの結論も出ないまま、9分が経過した。
回復が終わったセンはスっと立ち上がり、
自分の身体に違和感等がないか確認してみた。
そこで、気付く。
「……ん? 活動限界時間が……MAXになっている……?」
エグゾギアの『活動時間』を確認すると、
完全チャージされた状態になっていた。
「ま、まさか……蛇の慈悲を使うと、エグゾギアの使用時間も回復できるのか? マジかよ……イカツっ。そうなると、全然、話が変わっ……ん……」
ガクっと、膝から崩れ落ちるセン。
うずくまったセンに、17番が、
(どうしたの?)
と、声をかけると、
センは、ぷるぷると膝を震わせながら、
「……こ、この異常な疲労感……もしかして、エグゾギアを回復させるのに、俺の自己治癒能力を使ったのか?」
正解だった。
蛇の慈悲――それは奇跡ではない。
どこからともなく力を借りて、無限の回復を約束する安易な術ではない。
それは、己の生命を炉にくべる力技。
細胞の奥で燃え上がる青白い火は、ミトコンドリアを灼き、ATPを狂ったように溢れさせる。
血管の中を駆けるその奔流は、膜電位を引き裂いて震わせ、電気も魔力もオーラも、ひとまとめに掻き混ぜられ、神字へ吸い込まれていく。
神字はそれらを整え、位相をそろえて束ねる。
かくして生体のあらゆる残響は、ひとつの奔流となり、エグゾギアへと注ぎ込まれる。




