125話 文殊にはなりきれない。
125話 文殊にはなりきれない。
奥までしっかりと入れることに成功。
回してみると、ガチャっと小気味いい解除音が響く。
「間違いなく適合しているな……」
そうつぶやきつつ、センは、扉が開くかどうか確認しようと、ソっとドアを押してみた。
すると、
ギギギ……
「ぅお」
なんと扉が開いた。
ビルぐらいでっかい扉なのに、ちょっと力を入れるだけで簡単に動く。
「カギ一個で開くんかい……いや、ていうか、もともとカギとかかかってないのか?」
などとつぶやきつつ、扉から手を放すと、
ゴゴゴと自動で戻って、バタリとしまった。
「勝手に戻ったか。……バネ鋼か負圧か。内部は陰圧管理? ……あるいは『扉が生きているか』……まあ、構造はどうでもいいが……」
などとつぶやきつつ、
次は、ためしに、カギを抜いて、扉を押してみた。
しかし、うんともすんとも。
「……ふむ。なるほど。『カギの意味はある』ってわけね。カギ一個でも開く……でも、鍵穴は最大で100個。ここから導きだされる結論を述べよ、17番」
(なんで、急にボクにふる?)
「一緒に思考した方が、よりよい解決策に届きやすいだろ? 三人よれば文殊の知恵だ」
(一人たりないから、文殊にはなりきれないけどね)
などと前を置いてから、
17番は、2秒ほど悩んで、
(……一番オーソドックスな答えは、やっぱり、段階式なんじゃない? カギ一個で得られる結果と、カギ100個で得られる結果が異なる)
「アグリー。で、なにが異なるのかね?」
(……知らんけど……たとえば、この扉の先に――)
「ああ、もういい」
(はぁ?)
「行けばわかることだ。議論は意味がない」
(……きみが始めた物語だろ……)
文句を言っている17番をシカトして、
センは、『誰にも届かない心の声』で、ぽつりと、
(……17番の野郎……ずっと、うっすら、『怪しさ』を醸し出してきやがる。間もテンションも言葉選びも、全部が全部、あやしすぎる。……17番は確定で『何か』を隠していて、かつ……それを、ずっと、『ほのかに匂わせて』きている。ここまでくれば、さすがに『嘘が下手』のレベルを超えている。こいつは、俺に怪しんでほしいんだ。……『17番が隠していること』は『その存在すら絶対にバレたくない秘密』じゃない。……『俺に怪しさを抱かせたいレベルの秘密』……)
頭を回転させつつ、
センはカギを一つ使って扉を開けた。
「……奥が見えねぇ……」
濃い靄のようなもので満たされていて、まったく視認できない。




