124話 鍵穴。
124話 鍵穴。
階段の先は、二車線道路ほどの幅を持つ、無機質な通路へと繋がっていた。
天井は高く、壁と床の材質は石とも金属ともつかない、判別不能な物質。
薄くくすんだ光沢を帯び、ところどころに苔めいた黒ずみが広がっている。
指で弾けば、きっと硬質な音が返るだろう。空気は冷えきっており、湿り気が肌にまとわりつく。
壁面には、一定間隔で『魔力灯』が埋め込まれていた。
その灯りは青白く、かすかに明滅している。
――ファストトラベル用の祠と同じ型。
センは足音を抑えつつ、慎重に進んでいく。
彼の足音は、静かなはずなのに、通路全体に反響し、
妙に不規則なリズムで壁伝いに跳ね返ってきた。
まるで、別の誰かの足音が混ざっているかのように。
やがて、視界の先がひらける。
一直線に続いていた通路の終端――
その先には、巨大な空間が広がっていた。
広さは、東京ドームがすっぽりと収まりそうなほど。
天井はドーム状にせり上がり、無数の太い柱が内部を支えている。
一部の柱は倒れ、瓦礫が床に散乱していたが、構造体としての強度はなお保たれていた。
そして、センの視線は、その空間の最奥――
「でかい扉だな……」
そこには、堂々たる存在感で鎮座する、巨大な扉があった。
幅も高さも、小さなビル一棟分はあろうかというスケール。
複雑な紋様が刻まれたその表面は、どこか既視感を誘う。
「なんか、すげぇデジャブ……」
センはぽつりとつぶやいた。
見覚えはないはずなのに、記憶のどこかを刺激されるような奇妙な感覚。
それは、『魂魄に刻まれた何か』が、心の底で蠢いている証。
「……」
センは、周囲警戒を怠ることなく、
その扉に近づいていく。
扉の横には、台座があって、そこに小さな鍵が一つ。
手に取って、じっくりと眺めてみるが、
「特に何も感じないな……」
そうつぶやきつつ、一応、確保しておく。
そして、扉をロックオン。
上から下までじっくりと観察したところ、
「……これ、鍵穴……か?」
でかい扉の根元。
高さにすると『約1,5』ぐらいのところに、鍵穴らしきものがあった。
鍵穴の形状自体は、どこにでもあるものだったが、
問題は、
「……鍵穴っぽいのが……『100個』ぐらいあるんだけど……これ、もしかして、『カギを100個集めないと開かない』……とかじゃねぇよな?」
ボリボリと、しんどそうに頭をかきつつ、
センは、
「……とりあえず、一旦……試してみるか……入るかどうか……」
そう言いながら、センは先ほど獲得した鍵を、扉の鍵穴に入れてみた。




