123話 ようやく見つけた新しい道。
123話 ようやく見つけた新しい道。
延々と続く草地。
ゆるやかな起伏と、ところどころに散らばる岩場。
頭上には、絹のように薄い雲が漂っており、日差しは鋭いが、風は乾いている。
センはその大地を、爆速で踏破していく。
山脈は遠く、海も遠い。
森すら、点でしか見えない。
歩を進めるたびに、草の葉がはじけ、虫の死骸が靴の裏で潰れていく。
モンスターや動物はいないが、虫は、けっこうたくさんいた。
走り続けた途中、視線の先に、うっすらと『地面が隆起している箇所』があった。
センは立ち止まり、グっとピントをあわせた。
(……あそこ、なんかあるか? 頼むから、いい加減、なんかあってくれよ。この散策を、ただのピクニックにしないでくれ)
心の中でそう願いつつ、近づいてみると、そこだけ雑草がやけに枯れていた。
土は硬く、石畳が、わずかに地表へ顔を覗かせている。
まるで『何かが隠されていた』かのように、露骨に不自然な円形が浮かび上がっていた。
センは足元の草を払い、地面を軽く叩き、そして石の縁を押す。
――ゴウンッと、何かが動く音。
草の下に埋もれていた“重い蓋”が、わずかに軋みながら開き始める。
「……これは……」
ゆっくりと現れたのは、地下へと続く、古びた石階段だった。
風がふわりと上がってきた。腐臭も毒気もない。ただ、ひどく静かな冷気だけが、下から吹き上げてくる。
石造りの階段は、古代文明の遺跡を思わせるほど精緻で、
側壁には、見たこともない言語の刻印がびっしりと彫られている。
階段の奥は、黒く深い闇に飲まれており、光を一切反射しない。
まるで、『ここから先は別の世界』と言われているかのような異質さがあった。
「……よしよし。やっと、それらしいものを見つけた。これほどまで大々的なことをやっておきながら、この奥に『やくそう』しかない……なんてことはないだろう」
センは、一歩、足を踏み出した。
――と、そこで、
背後に、ギニっと絡みつく視線を感じて、
反射的にバっと振り返る。
――誰もいない。
ただ、平原が静かに揺れているだけだった。
「……誰かに見られているような気がしたが……気のせいか?」
(気のせいじゃない?)
「……そう……だな……」
そうつぶやくと、センはもう一度、黒い階段の口元へと視線を戻した。
その奥には、深淵のような闇がぽっかりと口を開けている。
空気は冷たく、じっとりとした沈黙が、階段の一段一段から染み出してくるようだった。
センは一度、静かに息を整えると、
ゆっくりと――だが確かな足取りで、闇に沈む階段を降り始めた。




