120話 何も知らない。
120話 何も知らない。
(17番の言動に嘘があるとして、どこの何が嘘だ?)
などと悩んでいると、
そこで、17番が、
(なにを黙って突っ立ってんの? 行かないの? 行かないなら、ダンジョンに行こうよ)
「……行くさ」
そう言って、
センは、指輪の効果を発動させた。
その瞬間、センの姿が、シュンっと消える。
★
ダンジョンの転移魔法みたいに、一瞬だけ視界と意識がグラついたが、
「……ふぅ」
すぐに、センの全てが元に戻る。
センが瞬間移動した場所は、石の部屋。
サイズは学校の教室ぐらい
壁はすべて、煤けたような灰色の石材で組まれており、空気は淀んでいて、動く気流もない。
床は古びた石畳で、ところどころひび割れ、赤黒いシミが不規則に点在している。
壁のカドには、用途不明の金属製の杭が突き出しており、先端が黒く焦げているものもある。
天井からは微かに湿気を含んだ冷気が降りてきて、センの肌を撫でた。
明かりは、『壁に埋め込まれた六つの魔力灯』によるもので、それぞれがゆっくりと脈動しながら、白とも青ともつかない不安定な光を放っている。
全体的に『人工物のはずなのに、目的がまったく想像できない空間』という印象を受ける。
センは警戒しつつ、周囲を睨みつけて、
「……『気づいた時には魔王に囲まれている』ってパターンも想定していたが……何もない空間だな。……17番、ここはどこだ?」
(知らないよ)
「お前は何も知らんな」
(この場所に関する知識量は、お互い、完全にイーブンのはずだけど? ボクだけ罵倒されるいわれはないと思うんですけど?)
そんなことをつぶやく17番を尻目に、
センは、『17番に届かない心の声』で、
(かるくカマをかけてみたが……どうとでも取れる反応だったな。穿った見方をすれば、即座に『知らない』と断言したのは『カマかけに対して過剰に反応したから』とも取れるが……単純に『知らん』から『知らん』と言っただけの可能性だって普通にある)
などと、心の中でつぶやきつつ、
センは、ザっと、周囲の壁や床を調べていく。
叩いたり、押したり、時にはちょっとナメたり。
最終的に、『マジで何もねぇ』と判断したセンは、
「じゃあ、ちょっと外に出てみるか……」
ボソっとそう言ってから、
扉をあけてみた。
「……普通に外だな……」
無限の空と、流れる風。
空気が乾燥していて見通しがいい。
広がる平原、
振り返ると遠くにでかい山脈。
振り返ってみると、
「祠……かな?」
センが瞬間移動してきたのは、
『石で出来た祠』みたいな場所だった。




