109話 上質な嘘。
109話 上質な嘘。
『ま、魔王と同等の肉体スペックを得られる魔法……そ、そんな、バカな話……』
最初だけ疑ったものの、実際に試して、その凄まじさを理解すると、
『す、す、素晴らしい……これがあれば……何でもできる……』
『まさに、おっしゃる通りだ。ただし、気をつけろ。そいつは一日に【50分】しか使えない』
本当のリミットは30分だが、アバターラは、あえて『50分』と嘘をつく。
『こ、こんなものを持っているだなんて……あなたはいったい、何者なんですか?』
『アバターラ、探偵さ』
『……ぇ……は?』
『悪いが、何者か聞かれたら、こういわざるをえないんだ、俺の病気的に』
『……』
一瞬、ゴミを見る目をしてしまい、
(いかん、いかん……つい……)
そのことを強く反省するトバヒト。
アバターラは、トバヒトにとって、いわばお得意様。
お得意様に対して、ゴミを見る目を向けるなど、言語道断。
『……こ、この最魔王化が凄いのは分かるのですが……【人を殺せない】というのはどういうことですか?』
『オメガブレードで人を殺してしまうと狂乱ポイントがたまってしまう。狂乱ポイントが一定値を超えると使用者が死んでしまう。だから、それで人を殺すな。半殺しにした相手を植物人間にする効果があるから、それで我慢しろ。植物人間にしてしまえば、死んでいるのと変わらない』
嘘である。
オメガブレードにそんな仕様はない。
『制限時間』も『デメリット』も『植物人間化効果』も、全部でたらめ。
だが、トバヒトが、そんなことに気づけるはずもなく、
『……な、なるほど。まあ、これほど凄まじい武器ならば、そのぐらいのデメリットはあってしかるべきでしょうね』
『それを使って、邪魔なヤツを、全員、植物人間にしてしまえ。お前より強いやつがいなくなれば、お前の天下だ。やったな』
『一つ聞いてもいいですか、アバターラさん』
『なんだ?』
『もしかして、あなたの魔王召喚能力にも……このオメガブレードと似たようなデメリットがあるんですか? 時間制限であったり、殺すことができないことであったり……』
『お察しの通りだ。俺は無敵じゃない。……下手に動けば、諸々の弱点をつかれて死ぬ可能性がある。だから、これまで、ずっと、慎重に、コツコツと、邪魔な連中を消してきた』
『なるほど……』
『魔王の力が無敵なのは事実だから、制限時間さえ間違わなければ、何でもできる。間違えなければ、な』
『ですね……制限時間は、確か50分ですよね』




