107話 ヤクザの中でもやばいやつ。
107話 ヤクザの中でもやばいやつ。
そこで、14番が、ピキった顔で、
『あくまでもシラを切るつもりか! 流石に、みっともなさすぎるぞ! それでもヤクザか! 敵対組織に鉄砲玉を放った組長らしく、堂々と自分の暴力性を認めたらどうだ! 情けない!』
『なにか、勘違いされているようですね。私は、セミディアベル公爵から、魔王組の監視を任されている貴族ですよ。確かに、ヤクザをまとめる仕事をしておりますが、それは、上位者として犯罪者を監督しているだけ。……決して、ヤクザになったわけではございません』
『そんなクソみたいな、書類上だけの話なんかどうでもいい! 貴様のところの組員が、ハッキリと、トバヒトが犯人だと言っているんだ! これ以上の証拠があるか?!』
『……証拠? 下っ端ヤクザが、腹いせか何かで、私に罪をなすりつけようとしているというだけでしょう? 少なくとも、私の視点では、それだけの話です。よくあることですよ。スネに傷のある者は、優等生を忌み嫌うもの。優秀で勤勉な私が妬ましくて仕方ないのでしょう。まったく、ヤクザの監視役というのも損な役回りですね。領主としての仕事に専念したいのですが、いかんせん……おっと、今は領主補佐に過ぎないんでした。はっはっは』
目がまったく笑っていない。
『ヤクザ(犯罪を生業としている者)』の中でも、特にヤバいタイプ。
決して本音を表に出すことなく、粛々と猟奇的に悪意だけを執行できる稀有なタイプ。
――ヤクザの中にも人情家はいる。
ヤクザだからこそ義を重んじる……という者も結構いる。
――だが、トバヒトに、そんな要素はカケラもない。
仮に、仁義や任侠という概念が擬人化したら、トバヒトは、そいつを徹底的に拷問するだろう。
いや、徹底的に無視するかもしれない。
とにもかくにも、トバヒトに、『人としての道』みたいなものは存在しない。
生命の業と悪意だけをジックリコトコト煮詰めたような男……
……のらりくらりと、追及をかわしているトバヒトを見て、
17番は、心の中で、
(こういう、真っ当な悪党を見ると……ゼンドート伯爵が、まだマシに見えてくるんだよなぁ……)
そうつぶやくと、
17番の中にいる『モンジン(センエース)』が、
(そうか? むしろ、俺は、こういう真っ当な悪党の方が、ゼンドートと比べたらマシだと思うんだがな……)
★
10日の夕方。
『17番がヤクザの顧問になった』という話を聞いたアバターラは、
『じゃあ、もう、トバヒトは潰してもいっか♪』という結論を出し、
さっそく、トバヒトを処理しにきた。




