85話 祭。
85話 祭。
魔王討伐隊の責任者であり、この巨大都市ユウガが誇る最強の剣でもあるラストローズ辺境伯は、訓練と会議に忙殺されていた。
アバターラ討伐の進捗はどうなっているのかと詰め寄られる日々に胃が爆発しそう。
なまじ、責任感が強いものだから、一人、抱え込んでしまって、さあ大変。
『くそ……ぁあ……』
今のところ、殺されているのは奴隷だけなので、
まだ、そこまで、上流階級サイドの混乱は大きくないが、
『もし、仮に……奴隷だけではなく、貴族の誰かが殺されたら……』
そうなったら、もっと厄介な事になるのは明白。
そんな地獄の未来を想像して、また両手で胃を抑え込むラストローズ辺境伯。
若いうちに成功すると、こういう過剰な苦労も抱えてしまうという、可哀そうな典型例。
★
『24日』の朝。
その日、魔王討伐隊の訓練は休みだった。
理由は、『大星祭』が行われる日だから。
魔王が各地で暴れているさなか、そんなことをやっている場合か……と言いたくなるが、人間社会において、『それはそれ、これはこれ』と分けられるのが人情というもの。
西で悲惨な戦争が起こっていても、東ではスポーツの試合で一喜一憂する……それが人間。
17番も、『大星祭予選、外周西南西代表決定戦、無制限部門大会』に出場していた。
理由は単純。
大星祭の本戦に出場すれば、平民ランクが一気に上がって、貴族に近づけるから。
この段階での17番の目的は、あくまでも『成り上がること』である。
ゆえに、大星祭は外せない。
『魔王討伐隊の訓練を経て覚醒したボクの力を見るがいい! きたれ、深淵! 闇を裂いて降臨せよ! 我が最強のシモベ、ワンダーナイト(60)召喚!!』
『無制限部門』は、『存在値70前後』が優勝候補となる。
――『針土竜の3番』や『黒猫の99番』クラスの超人が数名出場している、かなり高位の大会なので、もちろん、素の17番では話にならない。
しっかりと『魔王マパネット』をフルで使って、『疑われないよう』に、方々に注意しつつ、ギリギリの逆転勝利を、なんとか、死に物狂いで『演出』しながら、確実に勝ち上がっていった。
そして、決勝戦……相手は、因縁の相手、
職場の同僚にして同期にして、幼児の頃からの幼馴染。
元『猿の20番』。
――平民のミケ。
『17番……今回は、流石に俺が勝つぞ』
『ミケ……君は確かに強くなった。まさか、存在値70を超えるなんてね……正直、ちょっと引いているよ。キモすぎて、ゲロ吐きそうだ』




