74話 蛇の慈悲。
74話 蛇の慈悲。
(逆に、ここまでは、よく、ほとんどミスをしなかったと、自分をほめてあげたいレベルだよ)
「世界の命運がかかっている場面で、たかが100個を暗記するぐらいが出来ないって……どういう脳みそしてんだよ。低偏差値高校の中間テストだって、英単語100個ぐらいは暗記するだろ」
(100点取るつもりなら、そのぐらい覚えるかもね……でも、赤点回避が目的なら、せいぜい20~30個だと思う)
「……17番、お前、まさか、わざと魂魄交換の聖水を、アバターラに回収させたんじゃないだろうな? 俺に飲ませるために」
(体がない今の状態のボクが、どうやったら君に聖水を飲ませられるのか、方法があるなら教えてくれよ。『ボクが主人格になったら、ゼンドートに殺されておしまい』だから、『実行する気はない』けど、その手品の種が実に興味深いから、ぜひ教えてもらいたい」
「はぁぁああ……」
と、クソデカいタメ息をついてから、
センはダンジョンを後にした。
★
《雅暦1001年7月22日深夜》
『存在値5000を超えている魔王』をほぼワンパンでブチ殺し、
『15個目(セン単体で集めた数。最初の1個+14個。今夜の成果は副人格排出薬とパーツ14個)』の『毘沙門天パーツ』を手に入れた直後のこと。
まだ、『完全な限界』ではなかったし、
『はやく、全てのパーツを集めて毘沙門天を完成させたい』
――という気持ちもあったが、
『ここらでいったん、超回復をいれておきたい』とも考えたセンは、
悩んだすえに、
ダンジョン最終フロアの中央で、
アスクレピオスの杖を静かに床へ立て、
ソっと座禅を組む。
――そして、
「……蛇の慈悲……」
宣言した直後、
足元から蛇のような光の曲線が広がり、螺旋を描いてセンの全身を包み込む。
それは単なる治癒魔法ではなく、肉体の根幹から作り替える『成長の催促状』だった。
ここから9分間、センは動けないが、そのかわり、肉体が急速に回復していく。
まず、骨髄が爆発的に赤血球と白血球を生成し、
血液が通常の十倍の速度で全身を巡る。
毛細血管は微細な筋断裂に合わせて瞬時に拡張し、
酸素と栄養素を細胞核へ直接押し込む。
ミトコンドリアはATP合成を限界以上に加速し、
『通常なら48時間かかる筋タンパク質合成サイクル』が、数十秒単位に短縮される。
さらに、『超回復』特有のフィードバック現象が発生する。
破壊と再生が、何度も何度も繰り返され、
そのたびに筋繊維は密度を増し、
骨格は衝撃に耐えるために再設計される。




