70話 ショウヘイヘーイ!
70話 ショウヘイヘーイ!
しんどそうに溜息をついてから、
センは、自分の『中』にいる17番に、
(おい、17番……『最終フロアにワープできるアイテム』とかねぇのか?)
(ない。そんなものがあったら、何よりソレを最初に取りにいかせるよ)
「そりゃ、そうだ。……仮に、ソレが存在していたら、お前を殺しているところだ。『なんで今まで言わなかったんだ、死ね、ボケ』って感じでな」
なんの生産性もないお喋りをしている間に最終フロアに辿り着いたセン。
今回、ダンジョン魔王の強さはさらにグンと上がっており、
「存在値2500か……随分と膨らんだじゃねぇか」
『上がっている』のは『存在値』だけではない。
魔王の『動きのキレ』が爆裂に上昇している。
膨大な魔力とオーラでコーティングされた『魔王の両腕』は、
無数の残像を刻みながら、空間そのものを裂く勢いで迫ってくる。
……ただ、
「ヘイヘイヘイ! ショウヘイヘーイッ!」
研ぎ澄まされたセンは、『存在値2500という異常な力』を持つ『魔王の攻撃』を、
まるで、『幼稚園児のドッジボール大会』に参加したプロボクサーのように、
ひょいひょいひょいと、一切危なげなく回避し続ける。
「どうした、どうした! 止まって見えるぞ! あれ? もしかしてマジで止まってる? あ、ちょっと動いているな。どうして、そんなにゆっくり動いているのかな? 腰でも悪いのかな? ギックリ腰を発症している時に殴りかかったりして申し訳なかったな、謝るよ」
などと煽りつつ、センは、グンと加速するように踏み込んで、
「俺に挑戦するのは200億年遅かったな! 挑戦してんのは俺で、お前はただ襲われているだけだけど! ――閃拳!!」
全力の正拳突きで魔王を粉砕。
余波で、床石が波のように隆起する。
……もはや、今のセンにとって、存在値数千程度を倒すのは、そこらのアリを踏みつぶすのと大差ない。
ちなみに、今回のダンジョン魔王は『第二形態式』で、
かつ『第二形態に変身した状態は10パーセント増しで強かった』……が、
もう、そういうの、全然、関係ない。
センからすれば、第一形態と第二形態の差は、誤差にもならないレベル。
『年収1000万のエリート会社員』にとっての『うまい棒の消費税ぐらい』と言っても過言ではない。
出オチでワンパン。
サっとシバいて即終了。
ダンジョン魔王の死体は、安らかに、宝箱へと変化した。
センは、流れのまま、宝箱を蹴り開ける。
中に入っていたのは……
「これが……『毘沙門天の剣翼』か」




