64話 泣いちゃうぜ。
64話 泣いちゃうぜ。
センは、さくさくと足枷を身に着けつつ、
説明書にも、一応、目を通す。
『アザゼルの足枷』
「足関節部に装着するタイプの鍛錬枷。戦闘力が上昇しやすくなる(俊敏性強化特化)。そのかわり、使用者の下肢筋繊維は、常に、断裂と再生サイクルを強制される状態となり、短距離加速・急制動・反復回避などの初動運動パフォーマンスに制限が加わる。また、膝関節・足関節・股関節周囲に持続的な激烈疼痛が発現する。筋膜炎・滑液包障害・靭帯性関節炎に類似した病態を伴い、階段昇降すら困難な運動障害が常態化する」
説明書に書いてある通り、装着して以降、ずっと、足がズキズキする。
「想定していたよりも痛みの度合が強いな……」
トントンとジャンプしたり、その場で屈伸したり、
足に対して、適度な負荷をかけてみた。
ちょっと動くたびに、ビキリと脳天まで響く痛み。
「……っぅ……泣いちゃうぜ」
ぽつりと普通の本音を口にすると、
センの中にいる17番が、
(それ、ずっとつけておくつもり?)
「当然だ。時間がないからな」
(よく、我慢できるね。ボクなんか、ジャンプはおろか、歩くこともできなかったから、すぐに外したよ。それ、痛すぎ)
「耐える方法を教えてやろうか? いかに冷静でイカレてるか脳に理解させるのがコツだ。心頭滅却すれば火もまた涼し」
(その言葉は聞いたことあるけど……マジなの?)
「なワケねぇだろ。だいたい、その世迷言を口にした坊さんは、ちゃんと燃えて死んでんだぞ。俺は、禅とか念とかを勘違いしているバカが大嫌いだ。苦行で悟れるわけねぇだろ。命をナメんな。親からもらった大事な体を無意味に傷つけるとか、正気の沙汰じゃねぇ」
(そんなことを言っているわりには、誰よりも苦しい思いをしている気がするけど? その足枷だけでも大概なのに、君は他に4つも『自傷系装備』を身に着けているじゃないか)
『サマエルの鎖(腕が重くなる)』
『メタトロンの甲羅(シンプルに重い)』
『サンダルフォンのサンダル(足が重くなる)』
『メリークルシミマス/Lカスタム(重度の風邪状態になる)』
「……経験値が上がる。戦闘力があがる。そういう絶対的なリターンが確約されているから、歯を食いしばって身に着けているだけだ。そうでなければ、こんなカス装備、視界にすら入れたくねぇよ」
しんどそうに、タメ息交じりにそうつぶやいたセンに対し、
17番は、『誰にも届かない心の声』で、ポツリと、
(メリーだけでも、身に着けてしまえば、まともには動けなくなる)




