48話 エグゾギア【魔王】、出撃準備。
48話 エグゾギア【魔王】、出撃準備。
「え、いける? 5分とか、ちょっと時間稼ぎされたら終わりじゃね? え、どうしよう……」
と、困惑しつつも、
センは、
「……と、とりあえず、どんなもんか試してみるか……」
そうつぶやきながら、
右腕に装着した腕輪を左手で握りしめるポーズをとり、
「エグゾギア【魔王】……起動」
機動宣言の直後、センの頭は、妙な感覚で埋め尽くされていた。
膨大な量の数字、無限の文字列――が超高速で流れていく。
『素体融合、開始』
声が聞こえた。
脳の中でグワングワンと響く。
『殺神回路外骨格、構築完了』
気付いた時、センは、『殺戮の魔王』を『身に纏って』いた。
頭の先からつま先まで、完全に『着ぐるみ』のようだった。
身長2メートルを超える『殺戮の魔王』の内臓と骨を、まるで精密にくり抜いた空洞のようにして、そこへセンがすっぽりと収まっている――そんな光景。
その異形の魔王は、『龍・鬼・悪魔』といった最上級存在を一度すべて解体し、最も凶悪な部位だけを厳選・再構成して作られたような、悪夢的集合体だった。
小型化された頭部には六つの眼球。
側頭部には、弧を描いて垂れる太く長い山羊の角が左右に一本ずつ突き出している。
下半身は、ゴテゴテと非対称な装飾が施された重厚な武道袴で覆われ、
六本の腕はすべて形状が異なる。中央の両腕は長大で分厚く、拳は重機のように巨大。
それに対して上対・下対の四本は、細く、短く、そして『腕』とは思えぬ造形で――まるで異様に伸びた触手や、ねじ曲がった棘そのものだった。
そして、背中から広がるのは、ドス黒く発光する奇形の羽衣と、六本の歪な剣。
それらは『絶死の翼』であり、『常闇の後光』であり、存在そのものが邪神への礼拝にも等しい。
――そこに在るのは、世界を殺すためだけに生まれた魔王だった。
その半身は生体であり、半身は機械。
脈動する漆黒の肉塊と、それを断片的に装甲化したメタルフレーム。
胸部では六角形の漆黒コアが眩く脈打ち、無尽蔵のエネルギーを生成しながら駆動ラインへと送り出している。
肉体を荒々しく包み込むのは、『邪悪なギュラリティフレーム』と金紫のフォトン。
装甲の継ぎ目は常に発光し、ところどころから黒煙がブシュゥゥと噴き上がる。
それはまさしく、『生』を嘲笑い、『死』を奉じるための意志――。
まるで『聖なる白銀』に『原罪の闇』を煮詰めて溶かし込んだような、死の華が幻想的に舞う。
言葉を失うほど禍々しく、極悪で、凶悪で、絶悪な姿。
その全てが、ただ立っているだけで、大いなる災厄。
サイズは2メートル10センチほど――だが、その威圧感は、遠目には十数メートルの怪物と錯覚するほどだった。
『AEGシステム最適化――
SSP-SEアルゴリズム展開……
アーティキルビット群、未登録。オルタナ・エディタ起動。
武装インターフェース確認……転送不可。
AEGスキルレジストリ検索中……適合スキルなし。基礎プロトコルのみ展開。
伏素構成カイゾロイド・アクチュエーター、融合完了……
神経同調リンク・オルタネーター、接続安定。
アルモニーモンド・ピット圧縮完了。
ゼオ=コクーロイオン駆動開始――
全システム、臨戦モードへ移行中……』
頭の中で声が流れていく。
極めて機械的な音声。
最後に、
『――エグゾギア【魔王】、出撃準備完了――』




