46話 ちょっと、何言ってるかわかんない。
46話 ちょっと、何言ってるかわかんない。
――今回の探索では、針土竜の3番も行動を共にする。
センは、ダンジョン攻略で、彼女に、『センエースの現実(魔王を素手で殴り殺して、ダンジョンをクリアする様)』を、もっと魅せつける予定だった。
ダンジョン探索で、それなりに、あれやこれやあった末、
最終フロアにサクっとたどり着く一同。
――現れた魔王を一方的にフルボッコにするセン。
瞠目する3番。
震える魔王。
……ダンジョン魔王は二度やられた末に、
『第三形態』へと進化する。
第一、第二の時は、ただのコワモテだったが、第三形態で阿修羅タイプへと大胆なビフォーアフターを果たす。
三面の頭部はそれぞれ『泣』『笑』『怒』の相を浮かべている。
同時に矛盾した感情を垂れ流す顔面の集合体。
翼は金属片を連ねたように錆びつき、羽ばたくたびに鉄の悲鳴をまき散らす。
腹部には大聖堂の鐘が埋め込まれ、鼓動と共に不吉な音響を響かせ、空気そのものを歪ませる。
そんな魔王の威容を見て、センは嗤う。
「――閃拳ッ!!」
その拳が振り抜かれる瞬間、空間は言葉を失う。
拳の中に祈りを見た魔王。
それは、一種の錯乱であり、
ある意味で、理路整然とした非公式の数式。
悠然と大局を見渡している破滅の序章。
狂気、乱舞、幽玄の空。
拳の残光は、理を裏切るドグマ。
闇を裂く弦はしなやかに、
光を燃やす鼓となる。
老獪を逸脱した殺戮の楽譜が、迷宮の粒子に焼き付けられていく。
光と影が交錯し、軌跡は風儀な韻律を描いた。
魔王の骨は砕け、鱗は剥がれ、魔力は逆流し、影は虚無へと転じる。
そうして重ねた死の濃淡だけが、
本物の前衛芸術という、
――最も不名誉なレッテルになるの。
★
センエースの常軌を逸した戦闘力を目の当たりにした3番は、最初、口をぱくぱくと、『お腹を空かせた鯉』のように呆けていた。
「ば、ばかな……魔王を……一人で……それも素手で……」
『理解が及ばない』というのを全身で表現する3番。
「こ、これまで……1000年以上、誰もクリアできなかった地下迷宮を……一人で……ぁ、ああ……それも、魔王を倒して……ぅ、ぃい……」
彼女の中の常識が粉々に打ち砕かれる。
ダンジョンに来る前の『ちょっとした闘い』で、センの戦闘力がハンパじゃないことは理解できていた。
逆気閃拳で脳を揺らされた時は、『人類最高クラスの超人だ』と思った。
けど、まさか……『魔王を殺せるほど』だとは、流石に思っていなかった。




