44話 逆回転。
44話 逆回転。
センエースの拳に狂気の捻転が加わる。
右の拳が、一直線に、『3番』の腹部へと突き刺さった。
3番は痛みを感じなかった。
衝撃すら、ほとんどなかった。
……なのに、すぐに悟った。
自分の『内側』が、掻き乱されている――と。
「うげぁああああああっ!!」
気を逆流させる、という、極致の嫌がらせ。
脳がグラリと揺さぶられ、内臓は裏返り、血が気と共にせわしくなく逆流する。
心臓の鼓動は乱れ、全身が見えない手で無慈悲にシェイクされていく。
世界がぐにゃりと傾き、上下の感覚が消えていく。
だから――
「うぼげぇええっ!!」
盛大に胃液を吐き散らす3番。
三半規管は完全に悲鳴を上げ、立つことさえ困難。
視界は回り、足元は揺れ、地に縫い止められた人形のようにふらついた。
吐瀉物の酸っぱい匂いが漂い、土に染み込み、戦場の色をさらに濁らせていく。
「あ、アネゴ!」
98番が心配して、彼女にかけよった。
先ほど、センに腕の関節を外されており、激痛が走っているが、
しかし、それでも、
アワをふいている3番を支えながら、
キっと、センを睨み、
「ゆ、ゆるさねぇ……17番……絶対にお前は殺す……」
「殺す、殺すと、しつこく、何度も……ヤンキーだからって許される頭の悪さじゃねぇな。……ムカつくから、教えてやるよ。本当の殺意を」
センは、えげつないほど『鋭い殺気』を、98番に向けて、
「――今から俺は、お前を……殺す」
ギュンギュンにほとばしる鋭利な殺意を前にして、
98番は、
「うっ、ひぃ……ぃっ!!」
全身の毛が逆立つ。
天敵を前にした小動物の気分が理解できる。
今すぐに逃げ出したいという衝動に駆られる。
だが、足が動かない。
蛇に睨まれたカエル。
「ぁあ、ぁああ……っ」
あふれる涙。
嗚咽が止まらない。
迫りくる『絶死』を前に命が大音量のアラームを鳴らしている。
「ぅ……ぃ」
ついには、耐えきれなくなり、
「……ぁ……」
失禁しながら、そのまま気絶した。
頭からひっくり返ろうとした……そんな98番を、
3番が、
「本当に……絶妙に使えないな、このガキは……もっと優秀な部下が欲しい……」
ブツブツ言いつつ、しんどそうに右手で頭を抱えながら、左手で98番を支えると、
その場で、98番を、ゆっくりと横にしてから、
「くそ……まだ、頭がふらふらする……」
フラつきながら、
どうにか、センに視線を向けて、
「……謝罪するよ、17番。あんたは、本物だ。……望むだけの金銭を払う。……だから、98番を殺さないでくれ」




