42話 未来を演算する。
42話 未来を演算する。
空気を切り裂く音が、幾十も幾百も重なって響いた。
黒い閃光の奔流が、グラウンドを一面、戦場のように塗り替える。
しかし――
センはすべてを紙一重で回避した。
砂煙を踏み割り、足裏で土を裂き、背筋をわずかにひねるだけで、致命の斬撃をことごとく躱していく。
闇の刃が掠めるたびに、頬や肩口に冷たい風が走った。
(いい魔法だ……)
センは心の中で呟く。
(ダンジョン内で魔王と戦っていた姿を見た時から思っていたが、やはり質がいい。凄まじく有能だ。針土竜の3番……こいつと黒猫の99番に神器を持たせ、チームを組ませれば……ダンジョンを攻略することも不可能ではない……か?)
目を細め、未来を演算する。
(残り時間が短すぎる今、限界まで、いや、限界以上に効率化をはからねばならない。もしアバターラと、3番&99番のチームが並行してダンジョンアイテムを回収できるなら……ゼンドート抹殺計画は、一気に加速する)
冷徹な計算の中、センの視線は止まらない。
その眼光の先で――
「ば、ばかな……全部……避けてる……だと?」
3番の驚愕の声がこだました。
砂煙が渦を巻く中、ただひとり、異様な姿勢で立ち続けるセン。
黒い刃が次々と掠め、空気が裂ける鋭音が鳴り止まない。
そんな中、センは最小限の動きだけで、全てを回避していく。
飛ぶ斬撃が頬をかすめるたび、肌のすぐ横を冷たい風が切り抜けていく。
紙一重の回避。
センの瞳には、恐怖も焦りも一切映っていなかった。
明確な『異常』を前にして、3番の肩が小刻みに震える。
あえて例えるなら、幼稚園児がメジャーリーガーの剛速球を、ポンポンとホームランにしている――そんな理不尽。
本来なら、絶対に超えられない壁がある。
3番の存在値は『70』、センは『9』。
差は月とすっぽん。常識的には、勝負にすらならない。
しかも今、3番が使っている魔法は、存在値が同等の相手にすらまず避けられない命中率を誇る。
それを、存在値9の糞ザコナメクジが、すべて見切って回避している。
この現実離れした光景を前に、3番は喉を裂くように叫んだ。
「そんなわけがない!!」
両手を前に突き出し、練り上げた魔力を一気に結集させる。
指先からあふれる光が花弁のように散り、魔力が咲き乱れるように広がっていく。
「薔薇領域ランク5!!」
惜しみなく切られた切り札。
分身魔法よりも希少な、領域系の発動。
瞬間、半径数メートルを支配する甘美で毒々しい香気が漂い出す。




