40話 スーパーエリート。
40話 スーパーエリート。
98番は、ダダっと詰め寄り、勢いよくセンの胸倉を掴み上げた。
「アネゴにナメた口たたくな、糞が! マジで殺すぞ! 平民とか関係ねぇ! こっちはヤクザだ!」
声が、鼓膜を叩くように響き、鼻先にはツバが飛び散る。
11歳の細腕とは思えぬ力で布地が引き上げられ、センの体がわずかに揺らぐ。
荒い息は熱気を帯び、血と汗が混じった鉄臭い匂いが鼻腔に刺さった。
だがセンは氷のように動じない。
底冷えする眼差しが、真冬の湖面のように光を失い、98番を射抜いた。
その目には、少年の怒声すら『取るに足らぬ雑音』としか映っていない。
「ヤクザか……つまり、反社の犯罪者ってことだな」
吐き捨てる声は冷たく乾いていた。
同時にセンの手が音もなく動き、胸倉を掴む手首を捕らえる。
ソっと、しかし迷いなくひねり上げる。
「いっ、いだだだだだっ!」
関節がギチギチと鳴り、腱が悲鳴を上げた。
指が逆方向にねじられ、98番の顔が苦痛で歪む。
涙が滲み、喉奥からは獣のような悲鳴が迸る。
「法治国家において最も脆弱な虫ケラ……それが犯罪者だ。俺は一応、魔王討伐隊という、大貴族直属のエリート部隊に所属する国家公務員。俺クラスの超エリートともなれば、犯罪者相手に、ある程度好き放題しても許される。なぜなら、超エリートだから」
冷笑が混じる声。
ひねり上げる力がさらに増すと、骨がゴキリと鳴った。
98番の体勢は不自然に折れ曲がり、まるで干からびた深海魚が無理やり吊るされたように、ぐにゃりと歪んでいく。
「いだいだいだだ、離せ、ごらぁああ!」
涙目のまま歯を食いしばり、98番は必死に足を振り上げた。
スネ、腹、胸──無鉄砲に何度も蹴りつける。
肉が叩かれる鈍い音が、連続して室内に響いた。
しかしセンは微動だにしない。
蹴られるたび、布がばふっと揺れるだけ。
その無表情さは、子供の必死さを冷笑する無感情な壁そのものだった。
「高貴な平民である俺様に蹴りを入れるとは……まったくもって躾のなっていない奴隷だ。家畜にも劣るゴミ。死んで詫びよ」
低く落とされた声。
センの手が、今度はゆっくりと98番の首筋へと伸びる。
冷たい掌が喉元に触れかけた瞬間――
「そのぐらいでいいだろう。もうやめておけ」
低くも芯のある声が場を裂いた。
針土竜の3番。
漆黒の髪が揺れ、翠眼が鋭く光る。
ただ一歩踏み出しただけで、空気は数度冷え込み、場の温度が変わった。
イケメン系アネゴの男前な口調は、硬直していた空気に鋭い輪郭を与える。




