38話 根性。
38話 根性。
「す、少しは休んだ方が……」
「お前が通行証を獲得するまでの間に9分休む。それで全快だ。『アスクレピオスの杖』があってマジで助かる。贅沢を言えば、発動までの時間を9分じゃなく、コンマ9秒にしてほしかったが」
「……」
そこで、99番は、センの全身をチェックする。
センの腕、頭、背中、足……
「17番……そ、その装備品の数々……どれも、肉体にとんでもない負荷がかかるものばかりだが……大丈夫なのか?」
「大丈夫じゃねぇよ。ずっと、クラクラしている。いまにも死にそうだ」
「……ぁ、あなたの体力はどうなっているんだ? な、なぜ、ここまでの事ができる?」
「俺の体力は今のところ人並だ。今の俺は、ただただ無理して、根性で立っているだけに過ぎない」
「根性……」
もはや呆れるしかない99番。
「余計な会話はここまでだ。さっさと行け。確実に、最速で20個の通行証を集めてきてくれ」
そう言い捨ててから、センは、巻藁を殴りに、トレーニング場へ戻った。
★
「はぁ……ひぃ……ぎぃ……ぎぃい……」
クラクラしながら、センは、巻藁を殴り続けていた。
昨日と同じくグチャグチャの拳……だが、テクスチャが、前日とは明らかに変わっている。
傷だらけで、だいぶ痛々しいのだが、しかし、その拳からは、確かな威圧感を感じた。
素人目にも分かるレベルの、積み重ねてきた者特有のオーラ。
「ぜぇ……はぁ……」
今にも死にそうな顔で巻藁を殴っているセン。
そんなセンのもとに近づいてくる一人の女性。
『漆黒の髪』と『切り傷のような鋭い目つきの翠眼』を自慢にしているヤクザ。
彼女――『針土竜の3番』は、センに、
「ずいぶんとキレのいい正拳突きだな……」
「……よう……ひさしぶりだな、3番。ぜぇ、はぁ……ぃや、『ひさしぶり』ってほどでもないか。はぁ、はぁ……一週間前に会ったばっかりだし」
挨拶をしつつも、センの腕は止まらない。
荒い息のまま、ひたすらに巻藁を殴りつづける。
そんなセンに、3番が続けて、
「……あんた、召喚士だろう? なんで、そんなに鋭い拳が使える? あんたの拳……ちょっと尋常じゃないんだが……」
「なんでって、そりゃ、俺の正体が『魔王使い』だからさ」
「……それは、どういう種類の冗談だ?」
「さらにさらに、それすらも実はかりそめの姿でしかなく、本当は、狂気を纏った武の化身だからさ。だから俺の拳は次元が違うんだ」
「……前に会った時と……随分、性格が違うように思うんだが……気のせいか?」




