34話 狂気の渦がしなやかな円になる。
34話 狂気の渦がしなやかな円になる。
「腕一本がなくなる程度は、まつげが一本抜けるのと、なんらかわらねぇ、いたって平穏なもの」
そんなわけがないことは、もちろん、発言している当人も理解している。
だが、それでも、センは、濃密なクレイジーを叫び続ける。
「まさか、右腕がなければ殴れねぇとでも? お茶目も、そこまでいけば笑えねぇぜ。この立派な左腕を見な。輝いて見えるぜ。絶対的に錯覚だけどなぁ」
などと供述しつつ、
異常者センは、左手をギュっと握りしめ、
「さあ……いい加減、二回戦を始めよう。ハンデが足りないなら言ってくれ。左腕もくれてやるから」
センエースのその様を、センの中で見ていた『17番』が、ボソっと、
(左腕までなくしたら……流石にきつくないか?)
などと言ってきたので、センは、ニっと笑い、
(腕が全部なくなったら、蹴りか、頭突きか、あるいは噛みつきで挑むさ。たとえ、体の全部をなくしても……何かしらを、何かしらして、どうにかしてみせる。そうやって生きてきて、だから俺は、今、ここにいる)
実際、センは、全て亡くして、それでも、諦めることなくもがき続けて、結果、今、こうして、魔王の前に立っている。
『記憶』は消えても、『魂が体験した過去』は消えない。
『狂気の渦を巻くセン』を、
センの中で見つめながら、
猿の17番は、
センにも聞こえない、自分だけの心の中で、
(……勝てるかもしれない。こいつなら……あのゼンドートにも……あるいは、もしかしたら……)
17番が、心の中で、そんな事を思っているとはつゆ知らず、
センは、気合を入れて、ダンジョン魔王第二形態の前に立つ。
第二形態は、全身が触手で、真ん中に目があるメデューサボール状態。
グニグニと触手を動かしながら、攻撃のタイミングを見計らっている。
センが、左拳にオーラを込め始めたのを見ると、
ダンジョン魔王は、ギュンと触手を伸ばした。
攻撃対象はセン……ではなく、その後ろにいる99番。
脳筋に見えたが実はINTも高いダンジョン魔王は、
『センに攻撃するよりも99番に攻撃した方がダメージを与えられる確率が高い』と判断した。
そのムーブに対し、センは、ニっと、あえて狂気的な笑みを浮かべて、
「そうだ。お前が本気で俺に勝つ気なら、それしか手はねぇ。ま、でも、それしかねぇ分。動きを読むのも楽勝なんだが」
そう言いながら、左手を手刀にして、
『99番を狙う触手』を、ザシュっと華麗に切り飛ばしてみせた。
「俺以外を狙うってことは、俺が安全で自由になるってことなんだぜ。ご理解OK?」




