32話 裏閃流基本技。
32話 裏閃流基本技。
「……き……貴様はなんだ?! どういう概念だ?!」
ダンジョン魔王の混乱……その解消に付きやってあげるほど、センはヒマじゃない。
センは、殺意を増幅させて、さらに躍動していく。
「一撃で殺すつもりで殴ったが……ちょっと血を吐かせた程度か……現時点における俺の拳の脆弱さにはヘドが出るぜ」
踏み込んでいく。
より速く。
より鋭利に。
いまだ呑気に戸惑っているダンジョン魔王の心臓めがけて、
「――回閃拳」
回転をかけた右の拳をぶちこんでいく。
一切の情け容赦なく『殺す』ことだけに特化したハートブレイクショット。
「がばぁつ!」
また、大量の血を吐きだすダンジョン魔王。
白目になって、泡をふく。
センの猛攻は止まらない。
相手がスキを見せたことで、さらに加速していく殺気。
目をギラつかせて、両の拳を固く握りしめ、
「高速閃拳」
ダダダダダと、
ダンジョン魔王の急所めがけて、
何度も、何度も、殺意のこもった拳の連打を叩き込んでいく。
魔王という種族は、ゲームの印象通りに、とてつもなく高い生命力を誇る。
だから、なかなか倒れない。
この莫大なHPを削り切るのは至難の業。
……普通ならそう。
だが、センの拳は普通じゃない。
そのイカれた性格同様、常軌を逸しているので、
「すぅううう!」
限界まで吸い上げた酸素。
体内で血が暴走していく。
膨れ上がったオーラを右こぶしに一点集中。
命を燃やして龍を咲かせる。
「――龍閃拳」
肉体の破損を恐れない狂気。
体内リミッターをシカトして放つ一撃必殺。
空間を裂くような莫大な一撃が、ダンジョン魔王の胸部に直撃。
「がっはぁあああああああっっ!!」
粉砕される、ダンジョン魔王の全て。
血が蒸発して、骨が砕け散る。
精気なく、そのまま、バタリと倒れこんだ。
センは、倒れたダンジョン魔王を見下ろし、
「はぁ……はぁ……」
息を整えてから、スっと、天をあおぎ、
「たかが野良魔王一匹殺すのに20秒もかけてしまった……情けねぇ」
声が空間に響く。
――その背中……
『遥かなる高みだけを一身ににらみつけているセンの背中』に、
黒猫の99番は、ただただ見とれる。
「う、美しい……信じられない武の極み……」
ただ声が漏れる。
センをヨイショする気などは一切ない。
ただただ、思った事を口にするだけの99番。
「ぁ、あなたに勝てる者など……存在しない……するわけがない……」
心底からの言葉。
99番の中で、センエースという存在が、どんどん膨らんでいく。




