31話 けど確実に……
31話 けど確実に……
今回のダンジョン魔王の突撃……これまでに見てきたどんな魔王よりも速い。
『17番が召喚できる魔王の中で肉体強度最強のパリピーニャ』よりも、
目の前にいる魔王は、明らかに高スペックな肉体強度を誇っていた。
「うぉっ」
ダンジョン魔王が繰り出してきた爆速の右ストレートを、
センは、ギリギリのところで回避する。
存在値の差を考えると、それだけでもありえない事。
『存在値9の体』で、ダンジョン魔王の暴走列車みたいなパワーとスピードに対応できるわけがない。
なのに、なぜ避けられたのか。
それは、ひとえに、『センエースの魂魄に刻まれた経験量』がハンパではないから。
センは、『自分がこれまで何をしてきたのか』を完全に忘れている。
存在値も戦闘力も、ほぼほぼ完璧に失っている……が、だからって、『やってきたことが消える』というわけではない。
四肢でも脳でもない箇所に、その痕跡が、ほんのかすかに、けど確実に残っている。
――センは、ダンジョン魔王の視線と筋肉の挙動を、徹底的かつ注意深く観察し、
ほとんど未来視のレベルで『動きを読んだ』から、どうにか回避することに成功した。
「フゥ……」
センは、さらに、集中力の海に沈んでいく。
反応、反射、音速、光速。
シナプスが少しずつ『センエース』に適合し始める。
パキっていく鳴動。
キマっている鼓動。
深紅に血走る眼球。
狂乱のインパルス。
17番と主人格を入れ替えてから、まだ数時間ほどしか経っていないが、センは、自分の中を駆け巡る神経細胞を、すでに、相当な勢いで矯正することに成功していた。
毎秒ごとに目覚めていく体躯。
指数関数的に魔改造されていく中枢。
コンマ数秒が膨れ上がって、
一瞬、一瞬が、神代の名画になっていく。
――センは、ダンジョン魔王の右ストレートを回避すると同時、
ギュンと腰を回転させて、
「――閃拳」
『すべてが一つになった鍛錬の結晶』を、
ダンジョン魔王の腹部にぶち込んでいく。
「ぐっはぁあああ!!」
盛大に吐血するダンジョン魔王。
腹部を押さえて、よろめきながら、後退りして、
「ば……ばかな……どういう……」
魔王クラスの力があれば、特殊な魔法を使わずとも、一目で、相手の存在値が、ある程度は分かる。
漏れ出ている魔力量とか、オーラの質とか、筋肉量とか。
あらゆる点から見て、センの存在値はハナクソだと分かる。
なのに、存在値550を超えている自分に血を吐かせた。
この異常事態に混乱する。




