25話 魔王なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです。
25話 魔王なんて飾りです。偉い人にはそれがわからんのです。
「世間の大人どもが本当のことを言わないなら俺が言ってやる。死は命より重い」
(…………どんなに言葉遊びをしたところで、人は死んだら終わりなんだよ)
「青いねぇ。耳のないネコ型ロボットより青いねぇ」
などと、そんな戯言を口にしていると、
「……な、何を一人で、ブツブツ言っている?」
背後からそう声をかけられ、
センは振り返る。
そこに立っていたのは、黒猫の99番。
困惑した顔で、センを見つめていた。
そんな彼女に、センは、
「俺が独り言を口にしている時は、『またいつもの病気が発動している』と思いつつ、ガン無視してくれれば、それでいい。――可哀そうなヤツなんだ、俺は、基本的に。ソっとしておいてやるのが人情ってもんだろう」
と、いったん前を置いてから、
センは続けて、
「それで? 地下迷宮の通行証はもらってきてくれたか?」
「……ああ」
そう言って、5枚の通行証を手渡してくる99番。
センは、それを受け取ってアイテムボックスにしまい込むと、
「じゃあ、俺は、今からダンジョンに行ってくる。お前は、家でのんびりミルクでも飲んでいやがれ。俺の邪魔をせんようになぁ」
「……そんなボロボロの状態で、ダンジョンに行く気か? いくら、魔王を召喚できるとはいえ、そんな状態では――」
「魔王なんか使わん」
「……は?」
「魔王じゃゼンドートは殺せねぇ」
「……ぜ、ゼンドート伯爵が、『魔王と生身で渡り合った』という話はアバターラから聞いている。正直、とんでもない話だと思う。ゼンドート伯爵が、『ラストローズ辺境伯に次ぐ才能』を持つという話は聞いたことがあったけど、まさか、それほどとは思っていなかった。……けど、所詮は『魔王に襲われても、なんとか生きのこった』というだけで、『複数の魔王で挑めば十分に殺せる』という話だったんじゃ……」
「そんな次元じゃない。ゼンドートは、最終的に、『魔王なんか瞬殺できるほどの強さ』を得る」
「は、はは……そんなわけ――」
そこで、センは、キっと、99番を睨み、
「お前がどう思うかは勝手だが、テメェの『小さな井の中にある常識』を引き合いに出して、俺の時間をムダに奪うんじゃねぇ。信じる気がないなら、最初からなんの質問もするな」
「……」
「事実、ゼンドートはヤバイ。だが、俺は必ず、あいつを殺す。そのために出来ることを全部やる」
(本気で言っているようにしか思えない……けど、ほんとに? だって、ゼンドート伯爵は、所詮、たかが貴族の一人にすぎない……対して『魔王』は、全人類が束になってかかっても勝てない化け物の中の化け物……なのに……)




