23話 弱音を吐かないヤツは訓練された敵だ。
23話 弱音を吐かないヤツは訓練された敵だ。
合間に、ちょこちょこ、『治癒ランク1』を挟んでいるが、
回復量がゴミすぎて、全然治っていない。
もうすでに、MPは尽きて、心も体も限界を超えている。
グチャグチャの拳……痛みに耐えながら、『閃拳』を、ひたすらに打ち続けた結果、
「よし……ちょっとだけ……コツを掴んできたぞ……」
テキトーなことを言っているわけではない。
実際、巻藁のしなり方と、衝撃音が、明らかに変わってきている。
隣で見ている『同期の20番』こと『ミケ』が、
呆れた顔で、
「手、痛くねぇの?」
と聞いてきたので、センは、
「ふっ……『痛い』などと弱音を吐く奴は敵だ。弱音を吐かないヤツは訓練された敵だ」
「……なにを言っているんだ?」
「それが分からないから、お前はダメなんだ」
朦朧としながら、それでも、元気に戯言を吐き続ける変質者。
あまりの痛々しさに、ミケが、渋い顔で、
「俺も痛みに強い方だけど……さすがに、そこまでグチャグチャになった手で巻藁を殴ったら悲鳴をあげる自信があるな」
「悲鳴をあげるやつは訓練された敵だ。悲鳴をあげないヤツは改造手術を受けたショッカーだ」
「……そうか。うん、そうだな」
投げやりな言葉を吐き捨てるミケ。
その視線の先で、センは、まだまだ、巻藁を殴り続ける。
それは、それは……誰の目にも病気としか思えない、吐くほどキモい光景だったとさ。
めでたし、めでたし。
★
2時間経とうが、3時間経とうが、
センは、黙々と巻藁を殴り続ける。
ミケは既にいない。
だいぶ前に、『別の場所で自主練する』と言って帰った。
一人、黙々と巻藁を殴り続けるセン……
そんな彼の背後に近づく影が一つ。
しなやかな歩調の女性。
『セン(17番)』と同じく、魔王討伐隊に潜入しているクノイチ。
黒猫の99番。
「面談でゼンドートと何を話した?」
前置きもなしに、99番は、直球で情報収集を開始する。
そんな99番に対し、センは、巻藁を殴りながら、
「そんなことはどうでもいい。それより、ダンジョンの通行証を3つほど、確保しておいてくれ」
「……どうでもよくはない。私は、『お前の本体であるアバターラ』から、お前の監視を任されている。つまりは、バカなお前の尻ぬぐいを任されているということだ。ゼンドートのような危険な存在から何を言われたのか……お前の子守り役として、その辺はキッチリと把握しておかないと――」
「黒猫の99番。……もう二度と言わないから、死ぬ気で脳に刻み込め」




