22話 ここは地獄。魔王の檻。
22話 ここは地獄。魔王の檻。
(おそらく、反証したいからだろうな……この極端で差別的な意見を、僕は、正義の化身として、受け入れるわけにはいかない。だからだろう……)
なんて、通っているのか微妙な理屈を言い訳に、ゼンドートは、どんどん読み進めていく。
ゼンドートの頭の中に、『この世界に存在するのは全て罪人である』という予想……というか、『決めつけ』が、シッカリとした土台のある知識形態として、ガシガシ刷り込まれていく。
「この都市には、『選定者の血が流れている特別な血脈の大貴族』以外、『生きる価値のない連中』しかいない……というのが、この本の結論か。そして、その選定者は……セミディアベル公爵や、僕の血脈……ふむ」
結論の結論を端的に描くと、
・この世界は『異世界の罪人が堕ちる地獄』であり、『選定者』によって、最後には裁かれる運命にある。
・『選定者』とは、『この世界の神』の『血を継ぐもの』であり、唯一、この世界で原罪を背負っていない者。
・『魔王』とは、この巨大都市ユウガという檻から罪人を逃がさないための見張り役。地獄の鬼みたいなもの。
「この本に書かれている内容が事実なら、僕とセミディアベル公爵は、この街にいる人間を殲滅しないといけない……ということになるな。ふっ、ばかばかしい。誰もいなくなった世界で、一人、孤独に生きろとでもいうのか。それこそ地獄じゃないか」
そう言いながらも、ゼンドートは、『黒の証』を、手から離さない。
なぜかは分からないが、妙に惹きつけられる。
「……断固たる断罪の選定を経て、僕は、より高次の存在へと格上げされる。その時、僕は、真の支配者として、『約束の地』へと旅立ち、永劫の覇者となる……」
認識がブレていく。
脳内に刻み込まれていく。
「もう一度……フラットな視点で読んでみるか。まだ、理解しきれていない箇所が多い気がする……」
そう言って、ゼンドートは、黒の証を読み込んでいく。
何十分でも……
何時間でも……
「正義とは……『罪』を裁く義務。……『罰』と向き合う責務。つまりは、しかして……これは、僕の運命……」
★
ゼンドートが、大いなる闇の魔導書『黒の証』を読みこんでいる間、
――センは、ずっと、巻藁に、拳を叩き込んでいた。
何度も、何度も、何度も、何度も。
頭がおかしくなったとしか思えないような顔で、ずっと、延々。
拳の血があふれ肉がめくれ骨が砕けても、
それでも巻藁を殴り続ける、完全に異常者の諸行。




