21日 読書の流儀。
21日 読書の流儀。
「それでは、私も、そろそろ失礼させてもらう。意外かもしれないが、実は忙しいのだよ、私は」
そう言ってゼンドートに背を向けて歩きだすセミディアベル。
そんな悪魔貴族に、正義の化身ゼンドートは、渋い顔で、
「……意外かもしれないって……いや、あなたが、この都市で一番偉い人なんですから、そりゃ、あなたが一番忙しいでしょうよ」
「ふふふ……君とのおしゃべりは本当に楽しいねぇ。小気味よくて、胸が躍る。くくく。ラストローズくんなんかより、よっぽどスマートだ。すべてがね」
その言葉に、ゼンドートは、少しだけ、
本当に、少しだけ……嬉しいという感情を抱いた。
ゼンドートは、理解している。
(あくまでも、これはセミディアベル公爵の作戦だ。……この人は、苦い毒を撒くだけじゃない。こうやって、人の心に甘い毒もまく。結局、全部、毒。……わかっている……わかっているんだけれどね……)
心の中で、セミディアベル公爵の作為を丁寧に分析しつつも、
「……ありがとうございます」
少しだけ本当に緩んだ頬で、そう返事をしてしまう。
意外にチョロいゼンドートを一瞥してから、
セミディアベル公爵は、貴賓室を後にした。
――セミディアベル公爵がいなくなって、すぐ、
ゼンドートは、『黒の証』を開いた。
『目次』と、そこから辿れる『大事そうな結論部分』を、ざっと流し見する。
『論文や文献を読むときに冒頭からなぞる者は頭が悪い』
『最終結論を完全に把握してから読まなければ時間の無駄』
……というのが、ゼンドートの流儀。
書かれている内容を簡単に把握したゼンドートは、タメ息交じりに、
「何が哲学書だ……考察ですらない、ただの予想が書かれているだけじゃないか」
簡単にまとめると、以下の通り。
・この世界に存在する魔王は、この世界のシステムによって生み出されている。
・この世界に存在する人間は、すべて、『異世界の罪人』の転生者。
・この世界は、『異世界の罪人』に罰をあたえるための、文字通りの地獄。
断言調で書かれているものの、証拠のようなものはなく、
よくよく読んでみれば、すべて、筆者の予想でしかないと分かる。
「……全箇所で『おそらく』と『かもしれない』のオンパレード。……何一つとして、予想を証明する証拠や方程式はない。……く、くだらない……ばかばかしい」
心底、そう思った。
理性が『これは読む価値のないゴミだ』と認識した。
なのに……なぜだか、不思議と、ページをめくる手が止まらない。
眼球が、なぜか、文字を追い続ける。




