18話 超上質な悪意。
18話 超上質な悪意。
(……あんたは、私のことを、あざ笑っていたじゃないか。魔王討伐隊の発足も、提案したのは私で、あんたは、私の申請に対し、最後に、『認める』と言って首を縦に振っただけだろう。……本当に、嫌いだ、この人……)
心の中で、吐き捨てつつも、
しかし、ラストローズ辺境伯は、
「はい……思います」
と、心を殺した返事をする。
「しかし、君には失望したよ、ラストローズくん」
「ぇ?」
「最初から私の指示通りに対応していれば、魔王事件が、ここまで大きくなることはなかったかもしれない」
「はっ?!」
「ラストローズくんが、もっと真摯に対応していれば、多くの事件を事前に防げていた可能性が非常に高い。君もそう思うだろう、ゼンドートくん」
「……」
ゼンドートは、どう返事をするか、一瞬悩んだ。
ゼンドートは、若くして自分より高い地位についたラストローズのことを、心の深層の部分では『不愉快』に思っていた。
その心情を露骨に表に出すことはない……こともないが、基本的には、フラットな対応をするように心がけている。
だが、今は、セミディアベルの対応で、実質あたふたしているというのもあり、
「そうですね……後から言っても仕方のないことですが、初動で、もう少しやりようがあったのではないか、とは思いますね」
と、論理性に欠ける言葉を口にしてしまう。
セミディアベルに迎合しているだけの陳腐なセリフ。
まるで、『金魚の糞』や、『下っ端A』のような発言だな……と、ゼンドートは、少し自制する。
ラストローズを慮るつもりは今も一切ないが、
もっと『絶対的な正義の化身』であるゼンドートとしての『ふさわしい物言い』があったのではないか……と自問自答。
ラストローズは、深い怒りを、どうにか深呼吸で抑えつけつつ、
「そ、それは流石に無茶苦茶です! 私は、最初から、魔王事件は大問題だと必死に進言しておりました! なのに、閣下が『都市内部に魔王が出るわけがない』と――」
と、反証と自己弁護を開始しようとしたところで、
「冗談だよ、ラストローズくん。君が頑張っていたのは、よぉく知っているさ。君は何一つ悪くない。だから、何ひとつ責任を取る必要がない。そうだよね? そうなんだよね?」
ニタニタ笑いながら、そんな事を言われて、ラストローズは、
「……っ。な、何一つ責任がない……とは言いませんが……」
「いやいや、いいんだよ、ラストローズくん。君は、今、自分には責任がないと言いかけていたじゃないか。君の初動対応について『他にも、やりようがあったのではないか』と指摘する私に対し、顔を真っ赤にして、『目茶苦茶だ!』などと子供のように叫ぼうとしていたじゃないか。とても『責任感のある大人』のとる言動とは思えないが……まあ、でも、仕方ないね。君は、まだ若い。これから、これから、はっはっは」




