17話 努力の足りない無能は死ねばいい。
17話 努力の足りない無能は死ねばいい。
「隊員たちに緊張させたくなかったからお忍びでね。ふふふ、どうだい、私は殊勝だろう?」
「……そうですね」
しんどさを、少しだけにじませながら、ゼンドートは、そう返事をした。
ゼンドートは、セミディアベル直下の配下。
セミディアベル派閥の筆頭……だが、
セミディアベルに心酔しているというわけではない。
公爵の力強さや深い知性に敬意を抱いているし、シンパシーを感じる部分もある。
だが、どうしても『生理的に苦手』という本音が先に立ってしまう。
「先ほどの、チーム組手……見させてもらったよ。彼……なんといったかな……忘れたが、『猿真似の何番』かが、君に一撃を入れていたな」
「猿の17番です」
「ああ、そうそう、それだ」
と、楽しげに笑いながら、
「あんな幼い奴隷相手に油断しすぎだ、バカ者……と君のコトを叱った方がいいかね? それとも、『幼いながら、あの拳は素晴らしい』と、あの奴隷を褒めた方がいいかね?」
セミディアベルらしい嫌味な発言に対し、
ゼンドートは、一切臆することなく、堂々と、
「猿の17番は、平民に昇格しております。もうチンケな奴隷ではない。そして、どうやら、なかなかに計算高い様子。勘違いが発端とはいえ、今よりももっと幼いころからずっと、自分の本当の姿を偽り、社会を騙してきた。その手腕は見所がある……と僕は考えます」
「ずいぶんと買っているようだね。君は奴隷を嫌っていたのでは?」
「奴隷を嫌っているのではありません。努力の足りない無能が嫌いなのです。だから、結果として、奴隷に対して嫌悪感を抱いてしまう。奴隷は、ほぼ全員、努力か才能が足りない無能だから。……しかし、その悪感情を、無理して表に出す気もありません。その行動には意味がない」
「君は非常に合理的だ。いつだってそうだね。非常に素晴らしい。感情に流される愚物はミスしか犯さない」
そこで、セミは、ラストローズに視線を向けて、
「いやぁ、しかし、驚いたね。まさか、本当に魔王が都市内部に出現するとは。もちろん、私は、最初から、その可能性を視野にいれていたとも。だからこそ、即座に魔王討伐隊発足の命令を発令できたんだ。どうだい、私は素晴らしいだろう?」
その発言に対し、ラストローズ辺境伯は、ギリっと奥歯をかみしめ、
(……あんたは、『魔王が入りこむことはありえない。変な感染症かなにかだろう』と言って、魔王対策の重要性を訴える私のことを、あざ笑っていたじゃないか)




