14話 暗黙のルールなど存在しない……なら……
14話 暗黙のルールなど存在しない……なら……
「ゼンドート閣下……あなたは、昼の面談で、『過剰に有能な奴隷は、一生、奴隷として使い潰される』という、この都市の人間であれば誰でも知っている『暗黙のルール』など『存在しない』とハッキリ言いましたね」
「……何の話をしている? 僕は、君の武について――」
「その問いの答えに繋がっているので、どうか、俺の質問に答えていただきたい。暗黙のルールなど存在しない、と、ハッキリ言いましたね?」
「……ああ、それが?」
「あなたが言うなら、そうなんでしょう。ええ、信じますとも。だって、偉大なるゼンドート閣下の言葉ですから。……でも、ゼンドート閣下から明言を頂く前の俺は、その『暗黙のルール』が『この都市における絶対のものである』と思っていました。事実ではなかったようですが、しかし、俺はそう信じていた」
「……それで?」
「だから、貴族に上がるまでは、無能な召喚士のフリをしようと思ったのです」
「……」
「別に俺は賢くないですが……しかし、流石に、あそこまでアホではありませんよ。けど、無能であればあるほど、この都市では出世しやすい。いや、『無能だから出世しやすい』というのは言い過ぎですね。あくまでも、無能であれば、少なくとも『優秀すぎるから昇格させずに奴隷のままにしておく』という理不尽な圧力はかからないというだけの話」
そこで、言葉を区切ってから、センは、
「だから、バカ雑魚のフリを徹底してきました。誰にもバレないよう、自分の表層に、鉄壁のペルソナを根付かせた。……けど、もう、その仮面は必要ない。だって、暗黙のルールは存在しないんだから」
「……」
「俺の武は、あなたを本気にさせるほどの質量を持つ。そして、俺はまだまだ発展途上。これだけの才能を持つ者が……貴族に上がれない、なんてことはないですよね?」
センが、小刻みに震えながらそう言うと、
ゼンドートが、眉間にしわを寄せて、
「……先ほどから気になっていたんだが……なぜ、プルプルと震えている?」
「ああ、実は、最初から、ずっと、空気イスをしていましてね」
そこで、ゼンドートは、腰を上げて、回り込み、センのケツを見てみた。
確かに、センのケツは、ソファーに接地していない。
数ミリだけ浮いている。
センは、額に汗を浮かべながら、にこやかに微笑み、
「時間がもったいないので、ついでにトレーニングをさせていただきました。ハムストと内転筋が悲鳴をあげていますが……まだまだ座ってやりません」




