21話 何も考えていないバカ貴族よりはマシ。
21話 何も考えていないバカ貴族よりはマシ。
(ゼンドートは確実に殺さないといけない。もはや、こいつが、悪か正義かはどうでもいい。こいつを野放しにしていたら、いずれ、世界は、こいつという害悪に犯されて破滅する)
(そうかな……)
(は?)
(破滅はしないんじゃない? ……茶化しているわけじゃないよ。素直にそう思っただけ。だって、ゼンドート伯爵は、極端かもしれないけど、『法を守るための理屈』を言っただけだよね。極端すぎるのは事実だから、誰かがストッパーにならないといけないと思うけど、その役回りの人がいれば……この人は、案外、法の番人として、うまいこと機能するんじゃないかな……)
(……お前、それ、本気で言ってんのか?)
(ゼンドート伯爵を善人だとは思わない。正義の味方だとも思わない。けど、真剣に考えて行動している分、他のバカ貴族よりはマシだと思うよ)
この前……ぶつかっただけで、ボクの腕を切ってきたバカ貴族『ウルベ卿』。
あのクズと比べれば……思想だけで言えば、ゼンドート伯爵の方がマシなんじゃないかな。
(ゼンドートは、ガキの前にニンジンをぶら下げて、食いついてきたら殺そうとするサイコだぞ)
(その点に関しては……まあ……)
そこで、ボクは少しだけ頭を回してから、
ゼンドート伯爵に、
「あの、ゼンドート伯爵……最後に、一つだけ質問いいですか?」
「なんだ?」
「なぜ、燕の5番に、ワナを張ったんですか? 『5番の窃盗』に対し『罰をあたえた理屈』は、もうわかったので、その前段階について話を聞かせてください。あなたがワナを張らなければ、5番が罪を犯すことはなかった。あなたは、いわゆるひとつの『幇助』とか『教唆』とかをした……ってことになって、だから、つまり、結果、あなたも犯罪者になるのでは? 機械的に線引きするのであれば、そういう風になりません?」
「彼女は有能な存在だ。極めて稀有な潜在能力を持つ天才。成長すれば、いずれ貴族となっただろう。大いなる力を持つ者には、大いなる責任が伴う。だから、心根の芯を試しておかなければいけなかった。それも僕の……彼女の主人である僕の責務だ」
「過剰に有能な奴隷は、奴隷として使い潰されるのが、この都市の暗黙のルールのはずですが? 彼女がそれほど優秀なら、むしろ、彼女は絶対に貴族にはなれない」
事実として、ボクなんかよりも、はるかに有能で、社会に貢献しまくってきた『針土竜の3番』や『蝙蝠の7番』は、奴隷として、休みなく働かされている。
優秀な彼女たちは、今後も、死ぬまで奴隷の身分でこき使われ続けるだろう。
それが、この社会のルールだから。
なんてことを考えていると、
ゼンドート伯爵は、曇りのない、まっすぐな目で、
「そんな暗黙のルールなど存在しない」
堂々と、そう言い切った。




