11話 痛みに強い。
11話 痛みに強い。
20番の綺麗なパンチを見たボクは、
思わず鼻水を垂らしながら、
ちょっと震えつつも、
「ま……まあまあかな。ちょっと踏み込み足がアレだから、その辺、気を付けた方がいいかもね」
「アレってなんだよ」
「そ、その神髄を知る資格が、今の君には、まだないよ。うぬぼれるな!」
「鬱陶しい野郎だな、お前は、ほんと」
そう言いながら、20番は、その場で、何度か、巻藁を殴って見せた。
素人目にも、なかなか綺麗なフォームだと思った。
途中でボクは、
「それさぁ……拳とか、痛くならないの?」
「俺、もともと痛みにバカ強ぇし、拳はそれなりに鍛えたから、まったく」
「ああ、たまにいるよねぇ、痛みに強い人って。……戦闘においては、絶対にそっちの方が有利だよね。耐久力もそうだけど、努力をする時も、痛みに強い方が、長い時間、頑張れるし」
「……そうだな」
「つまり、君とボクの差は、そこだけってことだよ。大きな差があるように見えて、実はたった一つの違いしかなかった。君は先天的に、戦闘に恵まれた資質を持っていた。ボクは持っていなかった。それだけの話なんだよ、全ては、結局のところ」
「で? だから?」
「なんにでも結論をもとめるのは、今どきの若い者の悪いところだね。ボクは、テキトーにごちゃごちゃ言っているだけだよ。そういうチルい時間こそが人生を豊かにするって、誰かが言ってた気がする。たぶん、気のせいだけど」
「マジでダルい野郎だな、お前。完全に頭がおかしい」
そう言い捨ててから、20番は、ボクに背を向けて、寮の方に帰っていく。
「逃げるのか、20番! ボクはまだ負けていないぞ!」
「まず、勝負をしてねぇんだよ」
と呆れ交じりにそう言ってから、
スっと振り返り、
「あと、俺はもう20番じゃねぇ」
「え、あ、もしかして、申請が通ったの?」
「ああ。今日から俺は『平民のミケ』だ、よろしく」
「なんで、そんな猫みたいな名前にしたの?」
「お前と一緒だよ」
「え?」
「パっと思いついただけの二文字。それ以上でも、それ以下でもない」
「……ふぅん」
★
20番……『ミケ』と別れたあと、モンジンの指導を受けつつ、
巻藁を100回ぐらい殴ってみた。
余裕で拳の皮がめくれて、骨が軋んで、血がにじんでいる。
「いたいよぉ……死んじゃうよぉ……」
なんで、ボクがこんな目にあわないといけないんだ。
ボクが何したってんだ……
(魔王を召喚して、都市を混乱させた)
(それは、実質的に、君がやっていることだよね?)




