10話 宇宙を殺すんだよ。
10話 宇宙を殺すんだよ。
おしゃべりばっかりしていても仕方ないので、
試しに、ボクは、巻藁を殴ってみた。
ポカっと情けない音がした。
「いったぁ……」
めちゃくちゃ痛いじゃねぇか。
拳の皮がめくれたし。
こんなもんを続けていたら、普通に指の骨が折れるだろ。
(拳の握り方がゴミすぎる。まず小指から巻け。親指は上から押さえるように、人差し指と中指の付け根に当てる。爪を中に入れるな、割れるぞ。そして殴る時は拳だけじゃねぇ。肩を入れろ。腰を切れ。足裏で地面を押し出せ。全身のオーラを一点に込めるんだ。突く瞬間に息を止めるな。息を吐け。呼吸と打撃はワンセットだ。肺と拳が連動するようにしろ。『早く出す』じゃない。『正しく出す』が先だ。慣れりゃ勝手に早くなる。相手を見るな。相手の『真ん中』を見ろ。目でも肩でもなく、『魂魄』の真ん中を見据えて突け。迷うな。疑うな。一瞬でも『痛そう』なんて考えたら、拳は止まる。……その迷いが死を呼ぶ。フォームを舐めるな。フォームは命だ。まずは理想のレプリカを求めろ。型を持っている奴だけが『次』を模索できる。クズは型を軽視して出来の悪い贋作をオリジナルと呼ぶ。本物のオリジナルはレプリカの先にある。骨身に刻め。お前の『人生最後の一撃』を、巻藁に叩き込むつもりで突け)
(多いよぉおお! いっぺんに喋って伝わると思うな! ボクの記憶力をナメるなよ! もう、君が最初の方に何を言っていたか、完全に忘れた! そして、後半は、もう聞く気をなくしていた! 結果、何も残ってないよ! なに、この無駄な時間!!)
と、ボクが怒りに震えていると、
そこで、
「なにやってんだ、お前」
と、20番が話しかけてきた。
ボクは、『モンジンに対する怒り』に身を任せて、キっと、20番を睨み、
「見て分からんヤツには言っても分からん!」
「……『召喚士が巻藁とお遊戯しながら奇声をあげているところ』を見て、何を分かれってんだ」
「ボクは今、『深淵なる目的』のために、正拳突きの練習をしていたんだ!」
「ほう……ちなみに、その深淵なる目的って?」
「宇宙を殺すんだよ」
「そうか……頑張れ。お前ならきっとできる」
「その介護士みたいな目を今すぐやめろ。宇宙を殺す拳でぶんなぐるぞ」
「今のお前の拳じゃあ、宇宙どころか、ガキの平民一人殺せねぇよ」
そう言いながら、20番は、巻藁の前に立ち、精神を集中させて、
「はっ!!」
息を吐きながら、腰をギュンと回転させて、まっすぐに、拳を突き出した。
パァアアアンッ!
と、芯を食ったような音が運動場に響き渡る。




