169話 俺は弟子を取らない。
169話 俺は弟子を取らない。
(そんなに、バッサリ切り捨てられると思わなかったな……普通、師匠ポジの人が、弟子から、『自分もできるかな?』みたいなことを言われた時は、仮に無理だと思っていたとしても、『いい感じの事』を言ってごまかすものじゃないの?)
(俺は、お前の師匠じゃねぇ)
(いや、そこは別に厳格にいかなくてもさぁ……きみは、状況的に、ボクが頼りにしている心のアニキみたいなもんじゃん。正式に弟子入りしたわけじゃないにしても、それに近いポジションってことでもいいんじゃないの?)
(俺は弟子をとらない主義だ。俺は常に、自分自身に不足を感じるタイプの神。ゆえに、誰かを育てているヒマはない。あと、対人関係が苦手だし嫌いだから、弟子はとらねぇ。もし、弟子になりたいってやつが出てきても、かぐや姫ばりの、かなり無茶な注文をつけて追い返す。そうだな……例えば……『今の名前を棄てて、今後一生、【平熱マン】と名乗るなら弟子にしてやる』みたいな感じでな)
(かぐや姫も裸足で逃げだす勢いの無茶なオーダーだね……)
と、タメ息をついてから、
(マジで、ボクって、どんなに頑張っても、アバターラみたいには戦えない感じ?)
(普通に頑張るだけじゃ無理。200億年ぐらい頑張る気があるなら、まあ不可能じゃないが)
(君の口から飛び出す数字は、いつだって、小学生の冗談みたいな値だなぁ……)
(鈍足の亀が、休まないウサギと張り合うためには、小学生の冗談よりエグい努力を積まないといけない。その道のりはイバラで出来た男坂。裸足で駆け上がる覚悟がお前にあるか?)
(……)
ボクが、言葉に詰まったところで、
アバターラが、
「はぁ……はぁ……ラストローズさんよぉ、どうやら、ずいぶんと疲れているみたいだな。情け……ないぜ……はぁ、はぁ……ゲッホッ……ぉえっ」
「肩で息をしながら、よく、そんなことが言えるな。完全に、こっちのセリフなのだが?」
「はぁ、はぁ……可哀そうだから、今日のところは……はぁ、はぁ……この辺で勘弁……してやる」
「逃がすワケがないだろう。このまま殺し切ってやる」
「…………ゼラビロス……あとは頼んだ……」
そう言った直後、
アバターラの目の前に、魔王ゼラビロスが出現する。
その瞬間、空気が変わった。
まるで重力が増したような圧力に、ボクの背筋がゾクリとする。
鼓膜がキィンと軋み、空気が揺れる。
――音が歪む。
世界そのものが怯えているみたい。




