163話 壁。
163話 壁。
その『不合格っぽい雰囲気』に焦ったボクは、慌てて、
「あ、いや、でも、魔王が相手なんですから、デバフ要員も、たくさんいた方がいいでしょ? ボクは、貫通属性を付与することができます。魔王相手でも、少量かもしれませんが、ダメージやデバフを与えられる逸材! この逸材を手放すのはどうかと思いますが!」
「今回、私は、ネオカマキリの力を確かめるために、あえて攻撃を受けたが……あのトロさでは、魔王に攻撃をあてるどころか、近づくことすらできずに、遠距離からの範囲魔法で消し炭になるだろう」
「うぐぅ……で、でも、それを言うなら、ボクのネオカマキリだけではなく、ラストローズ辺境伯肝いりのデバフ部隊も同じでは?」
「だから、壁がいる。壁役は死の危険性が非常に高い。有益な人材を盾として使い潰すのは心苦しいが……『都市内部に出現した魔王』を放っておいたら、『人間が全滅する可能性』もある」
その決定的な発言を受けて、受験生たちが、一斉に、ザワザワしだす。
「おいおい、どうやら、マジで、この巨大都市ユウガの内部に、魔王が出現したっぽいぞ」
「呑気に試験とかしている場合じゃねぇだろ」
「あ、ありえない。女神様の結界は絶対のはず」
「都市内部の人類総出でコトにあたるべきじゃないか」
「いや、人類総出で挑んでも、皆で死ぬだけだ」
「内部に魔王が現れたなんて事実を伝えたら……民衆が混乱するだけか」
「だから、秘密裏に人員を募集しているのか……」
「人類のために、ひそかに死ねってか……」
「……どうせ死ぬのは、俺みたいな下層階級の奴隷だけで、なんだかんだ貴族様は生き残るんだろうな……」
「いや、相手が魔王だと、貴族も奴隷も関係ないと思うぞ」
「そうだな……範囲魔法で、みんな仲良くお陀仏だ」
状況を理解したことで、逆に落ち着いてきた様子。
ここまで残っている受験生は優秀な者ばかりなので、
やみくもに騒ぐようなマネはしなかった。
……ラストローズ辺境伯は、続けて、
「壁役は高い確率で死ぬ。だが、覚悟ある1人が死ぬことで、民衆10人が生き延びることもあるだろう」
その言葉を……受験生たちは、真剣なまなざしで聞いていた。
都市内部に魔王が出現したという話が事実なら、真剣に、死ぬ気で対応しないといけない。
その結果、ガチで死ぬことになったとしても……それは人類という俯瞰でみれば、必要な犠牲。
その程度の現実が理解できない者はここにはいない。
そこで、ラストローズ辺境伯は、険しい顔つきになり、
「犠牲は伴う。私自身が犠牲になることも、もちろん想定している」




