158話 俺の配下のラストローズくん。
158話 俺の配下のラストローズくん。
ラストローズ辺境伯の華麗さを見て、ボクは思わず、タメ息をつきながら、
(……すげぇ……人間相手だと、辺境伯、マジで無敵だな……)
チャレンジャーの数は50人以上なので、まだまだ攻撃の手は止まらない。
火球、氷槍、雷撃、果ては呪詛の短剣――あらゆる攻撃手段が一斉に解き放たれた。
――でも、辺境伯には、一切届かない。
全部、あえての紙一重で避けている。
もはや、攻撃の方が、勝手に避けているみたいに見えた。
もちろん、それは錯覚だ。
「な、なんてスピード!?」
「こっちだっ!!」
「な、また消え――!?」
攻撃が空を切る音だけが響く。
50人がかりの攻撃が、一発たりとも当たらない……
(すごいなぁ……辺境伯の目には、世界がどう見えているんだろう……)
ボクは、自分もチャレンジャーであることを忘れ、
『サーカスを見に来たお客さん』みたいな心境になっていた。
ラストローズ辺境伯は、ずっと、顔色ひとつ変えずに、フラットな目で、ただ静かに、最小の動きで回避している。
歩幅は狭く、手の振りも小さい。
避けているというか、動きの少ないダンスの練習をしているみたい……
それなのに、どうして誰の攻撃も当たらないのか、本気で意味がわからない。
そこで、モンジンが、ボソっと、
(ふふん、どうだ、17番。俺の配下のラストローズは凄いだろう)
(君にとっては、『すごいやつ』は、全員、『自分の所有物』っていう認識なんだね……)
ヤバいやつだなぁ……
と思う反面、
そう言う風に世界を、『自分にとって都合のいいよう』に見ることができたら、
色々と幸せで楽かもしれないなぁ……
とか、そんなことを、現実逃避ついでに思ったりなんかしちゃったり……
『目につく女性は全員自分の恋人だ』と、本気でそう言う風に考えることができたら、毎日が薔薇色だろう。
幸せなんて、結局のところは、『自分がどう感じているか』が、ほとんど全て。
……となると、モンジンの視点こそが真理的にも心理的にもジャスティスなのかもしれない。
……今後は、ボクも、モンジンにならって、『目につくすべてがボクのもの』という視点で世界を見てみようか。
黒猫の99番はボクの恋人!
……99番が恋人だと、めんどくさそうだな……
……などと、脳内でお花畑をこねくり回している間に10分以上が経過した。
50人が束になって必死になって攻撃し続けたっていうのに、
辺境伯は、いまだ、汗一つもかいていない。
(ここまできて汗をかかないってのは、もはや、そういう病気じゃないかな?)




