154話 採用試験に受からないと死んでしまう病。
154話 採用試験に受からないと死んでしまう病。
「それでは、はじめ」
審判の合図と同時、
30番が、ニっと笑いながら、
「猿の17番、お前とは何かと因縁があるな」
「カッコつけているけど……きみ、1回戦は負けたんだね」
「うるせぇ! 俺の1回戦の相手は貴族だったんだ! 勝てるワケないだろ!」
虎の30番は、『15歳以下の奴隷』の中だと、最強格の強者だけど、所詮は少年奴隷だから、ガチで強い人にあたると普通に負けるんだよね。
「言っておくが、もう、前のような無様な負け方はしないぞ。以前の俺は、お前の麻痺ゴブリンをナメすぎていた。今日は、徹底的に注意をはらい……確実に勝つ!」
そう言って両の拳を握りしめる30番。
……30番は確かに強者。
ボクの『素の実力』では絶対に勝てない相手。
だから、正々堂々と戦う気はない。
姑息に、卑怯に、ズル賢く行く!
「30番……実は、ボク、病気でね……今回の採用試験に受からないと死んでしまうんだ。だから――」
「そうか! じゃあ、死ね!」
そう叫びながら、思いっきり突撃してくる30番。
どうやら、30番には人の心がないらしい。
なんて最低なヤツなんだ。
「うわわわっ!」
必死に30番の攻撃を避けようとするが、
「遅いぃいい!」
「ぶぇええ!!」
よけきれずに、顔面を思いっきりぶんなぐられた。
痛いって……
やばいって……
気絶しちゃうよ……
「続けていくぞぉおお!!」
そう叫びながら、30番は、ボクに連打を叩き込もうとした……
が、そこで、
「っ!」
30番は、ガクンっと、力なく、膝から崩れ落ちる。
「は? な、なんだ……これは……麻痺……ばかな……お前、ゴブリン、召喚して……ない……のに……」
「ふっ……いつから、ボクが『ゴブリンしか召喚できない』と錯覚していた?」
ボクは、殴られた頬を押さえながら、
「足元を見てみな」
ボクの言葉に従い、痺れる体をどうにか動かして、足元を見る30番。
そこには、一匹の虫がいた。
「最近ね、『雷カゲロウ』も召喚できるようになったんだ。ステータスはゴミだけど、麻痺性能はゴブリンと大差ないよ」
マパネットは、なんにでも擬態できる。
ゴブリンや、犬や、リスだけじゃなく……小さな虫に擬態することも容易。
ほんとに、チート性能だなと思う。
「く、そがぁ……卑怯者め……一回ぐらい……まともに戦え」
「卑怯は敗者の戯言だって、どっかの偉い人が言っていた気がするよ」
「ぐ……ぅ……」
30番が動かなくなったのを見て、審判が、ボクの右手を高くあげる。




