147話 あのラストローズ辺境伯を2秒も痺れさせた稀代の達人。
147話 あのラストローズ辺境伯を2秒も痺れさせた稀代の達人。
「あーあ……お前が失礼なことを言うから、お怒りを買ったぞ」
「いや、あの距離でボクらの会話が聞こえるわけないよね? 仮に聞こえていたとして、怒られる理由ないんですけど? ボク、『後衛っぽい』って言っただけなんですけど?」
「なんでもいいから、さっさと行ってこい。そして、ボコボコにされて、カツアゲされてこい。この前の大会で、容赦なく俺を倒した報いを受けろ」
「……知っているかい、20番。それを逆恨みというんだよ。また一つ、大人の階段をのぼれたね。よかったね」
と、雑な会話をしていると、
「――さっさとこい!」
いつの間にか背後にいた黒猫の99番に首根っこを掴まれて、ずるずると引きずられていった。
★
人目の少ない控室に連れ込まれたボク。
控室には、誰の気配もなかった。
妙に冷えた空気と、かすかに鉄の匂いがするだけだった。
もしかして、このまま、いけないことでもされてしまうのだろうか……
なんてアホな妄想で現実逃避をしていたボクに、
黒猫の99番は、
「お前、猿の17番だな」
温かみが一切ない冷たい声でそう言った。
ボクは、その声音の冷淡さに、軽く引きつつ、
「ぁ、はい。そうです。ボクがウワサの、麻痺ゴブリンの17番です。あのラストローズ辺境伯を2秒も痺れさせた達人ですので、カツアゲとかはやめておいた方が賢明かなぁ、と――」
「余計なことは言わなくていい」
「はい……すいません」
しゅんとするボクに、
99番は、
「私は黒猫の99番。『アバターラ』と契約したアサシンだ」
「ぇ?」
「契約したのは、つい数時間前だから、まだ、お前の耳には届いていないかもしれないが、私は間違いなく、アバターラと盟約を結んだ。今後、私は、表向き『魔王組の用心棒』として働きつつ、裏から、お前とアバターラをサポートしていく」
「……ぁ、マジっすか。それは、とても助かります」
「ちなみに、お前……今回の採用試験に受かった際に、ラストローズ辺境伯からどんな仕事をやらされるか、知っていて応募しているのか?」
「いえ、まったく。仕事を探していたら、担当者から『ここで採用試験をしている』と言われて……それで、ノコノコやってきただけっすね」
「……お前、本当に、アバターラの分身か? 『分身なのに見た目が違う』という話はアバターラから事前に聞いていたが……お前、中身もアバターラと全然違う気がするんだが」




