128話 情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ、そして何よりも速さが足りているゼンドート。
128話 情熱、思想、理念、頭脳、気品、優雅さ、勤勉さ、そして何よりも速さが足りているゼンドート。
「会話もできないバカ奴隷。今、取り込み中だから、消えろ」
「そういう訳にもいかない。俺は『胸糞』ってやつが吐くほど嫌いなんだ。あと、お前のことが死ぬほど嫌いなんだ」
「そうか。僕も君が嫌いだよ、下賤なゴミを見るとイライラする」
そう言いながら、ゼンドート伯爵は、アバターラに右手を向けて、
「上位貴族に対して、奴隷がナメた口をきくな。それは何より重たい罪だ。……純粋なる理性の正義を執行する。――闇雷ランク7」
ゼンドート伯爵の掌から、莫大な魔力がほとばしる。
バチバチと空気が裂けるような重低音が響き、
黒い稲妻が、轟音と共にアバターラへと奔った。
――直撃寸前。
雷光は、まるで見えない断崖にぶつかるように、
鋭い金属音とともに、弾け飛び、掻き消えた。
「……っ?」
ゼンドート伯爵が目を見開く。
何が起こったのか理解できず、彼の表情に微かな戸惑いが浮かぶ。
その視線の先――
静かに、だが圧倒的な存在感を纏いながら……
アバターラの前に、立ちはだかるように仁王立ちしていたのは、
黒き角を戴きし魔王――ゼラビロス。
その双眸が、ゼンドートを真っ直ぐに見据えていた。
虫ケラを見下す、鋼のような眼光。
狂気的な質量を伴う沈黙の圧。
ゼラビロスの登場と同時に、場の温度が下がったかのようだった。
音も、空気も、光さえも――すべてが、彼を中心に沈黙する
ゼラビロスの威容を目の当りにして、
ゼンドート伯爵は、一瞬で、ブワっと、全身に冷や汗を浮かべ、
「ま、魔王?!!」
ゼンドート伯爵の全身が恐怖で震えて、浮かび上がった汗が、水浴びした直後の犬みたいに、バババっと周囲に飛び散った。
伯爵の本能が、理性より先にゼラビロスを『とてつもない災厄』と認識したっぽい。
絶望的かつ危機的状況の中、ゼンドート伯爵は、だからこそ、冷静に行動をとった。
すぐに、先ほど自分が斬り捨てた『燕の5番』に最大級の回復魔法をかけて、
「ぼ、僕の盾になれ! 今、この瞬間は、君の罪を不問とする!!」
と、5番に命令をしてから、
「ラストローズ辺境伯! なにをボーっとしている! 噂の魔王の襲来だ!! 君が地下迷宮研究会の指揮官だろう!! 全員に指示を出せぇええ!! 死ぬぞぉおお!」
急な出来事に、地下迷宮研究会の面々は、みな、動揺して震えていたが、
ゼンドート伯爵の号令を受けて、みな、顔つきが一気にかわった。




