125話 正義の具現であり、秩序の化身。
125話 正義の具現であり、秩序の化身。
と、そこで、人道に厳しいカルシーン伯爵が、
「……ふざけるな、ゼンドート伯爵。そんな非道な行いを見逃すわけにはいかない」
「非道? なにをいっている。僕の言葉を聞いていなかったのか? 執行人は僕が務める。僕は紳士だ。正義の具現であり、秩序の化身。……正直、清廉でマジメで高潔な、この僕が執行人だと、罰として軽くなりすぎてしまう。しかし、相手の年齢や、罪に手を染めてしまった背景等を考慮して、温情を与えているのではないか。それがわからないのか?」
「ふざけるな」
そう言って、カルシーン伯爵は剣を抜いた。
「……何をバカなことを……僕に剣を抜くことの意味が……理解できないほど愚かではあるまい?」
静かなトーンでそう言うゼンドート伯爵に、
続けて、ラストローズ辺境伯も、剣を抜いて、
「もちろん理解できている。発言を撤回し、5番に回復魔法をかけ、そして謝罪しろ」
「……意味が分からないな」
ゼンドート伯爵は、本当に、『相手が何を言っているのか分からない』という顔をしていた。
あれは、決して演技ではない。
ゼンドート伯爵は、本気で、真正面から、『正しいのは自分で、間違っているのは周りだ』と認知している様子。
もしあれが演技だったら、アカデミー賞の中に『ゼンドート賞』という、新しい部門を追加する必要性が出てくる。
ゼンドート賞……それは、その年で最も素晴らしいサイコ演技をした者に送られる栄誉あるトロフィー。
最上級の狂気をはらむ者だけが受け取れる勲章。
ボクが、現実逃避で、新しい賞を作成していると、
ゼンドート伯爵は、たんたんと、
「まあ、しかし、このままだと、君たちと議論している間に、5番が死んでしまいそうだから、痛みが残る程度には回復させておくか」
そう言いながら、5番に、低ランクの回復魔法をかけた。
その結果、傷はふさがって、血が溢れることはなくなった。
5番は、出血多量の青い顔をしているが、まだしばらくは死なないだろう。
それを確認してから、ゼンドート伯爵は、
「一つだけ言っておく。カルシーン伯爵、そして、ラストローズ辺境伯……すでに、君たちは、罪を犯している。……正しい正義を執行しているだけの僕に、剣を向けた。これは許されない悪だ」
そこで、カルシーン伯爵が、バチギレの顔で、
「家族思いの子供を騙して犯そうとしておいて! 何が正義だぁああああ!! それは、この世で最も醜い悪だろうがぁああああああああ!!」




