123話 絶対正義。
123話 絶対正義。
「伯爵! 何をしているんだ!」
と、ラストローズ辺境伯は、『純然たる怒り』を叫んでから、続けて、
「カルシーン伯爵! はやく、彼女に回復魔法を!!」
と、バタバタしているラストローズ辺境伯に、
ゼンドート伯爵は、
「この奴隷に回復魔法を使うことは許さない」
と、ロートーンでそう言った。
「なにをっ――」
と文句を言おうとしたラストローズ辺境伯を、
ゼンドート伯爵は、キッと強い視線で睨み、
「この5番は、数日前、僕の財産を盗んだ。ゆえに、この都市の法と、僕の中の正義に従い、粛清した」
「盗み……? ……か、彼女ほど有能な者が、そんなこと――」
「ああ、そうだとも、ラストローズ辺境伯。この『燕の5番』は非常に優秀だ。わずか12歳で、存在値70。仮に、彼女が『ただの早熟タイプで今後の成長が緩やか』だったとしても『これほどの逸材はそういない』と断言できるだけの優秀な人材。けれど、窃盗は窃盗だ。僕は悪を許さない。司法を愚弄する醜悪は……正義のもとに断罪される。それがこの世界の摂理であり道理」
そう言いながら、ゼンドート伯爵は、
倒れている5番の背中に剣を突き立てる。
傷跡にめりこませるように。
「あああっ、いぃいい!」
彼女はまだ生きている。
だが、このままだと、確実に死ぬ。
5番は、ぴくぴくしながら、絶望の表情で、
「たす……けて……痛い……」
と、救いを求める彼女に、ゼンドート伯爵は、
「……粛清されたくないのであれば、犯罪に手を染めるべきではなかった。自業自得だ」
「……くれたんじゃ……なかったの? ……だって……だって……」
「試しただけだ。君が自分の欲望に負けるかどうかを。僕は、『心に正義を宿している高潔な者』以外を信用しない。僕は有能だが、『他人の心が真に高潔かどうか』を一目で判断することは出来ない。だから、試した。君は、高潔じゃない。穢れた咎人。だから、正義の名のもとに粛清する。絶対正義である僕の前では、全ての罪が平等に裁かれる」
そこで、カルシーン伯爵が、キレた顔で、
「試したとはなんだ? あなたは、その子に、何をしたんだ?」
「病気の妹を治すために金を稼ぎたい……と言っていたので、治癒の魔カードを、盗みやすいところに置いておいた。彼女は、その罠にまんまと引っかかった。情けない話だ。高潔さのカケラもない」
その話を聞いて、ボクは、普通に、『パねぇな』と思った。
ちょっと、ハイレベルすぎるな、この人。
今まで、ゲスな貴族は何人か見てきたけど……ゼンドート伯爵は、そういう連中の次元とは一線を画している気がする。




